自治労連 消防政策提言(案)

国民の生命、身体、財産を守る消防体制の充実のために

~自治労連の消防政策提言(案)

自治労連

2014年9月

はじめに

消防職員は、憲法を遵守する自治体職員であり、憲法および消防組織法が掲げた国民の生命、身体、財産の保護に基づき、任務についています。そして、消防・防災・救急など専門的な知識を発揮し、全国に約16万人が配置され24時間365日、昼夜分かたず、消防力の向上、防災・減災、救急医療、消防水利の保全や火災予防など業務に従事しています。

 近年、2011年の東日本大震災や1995年の阪神淡路大震災、巨大地震やそれにともなう津波、原子力発電所の事故、また大規模な自然災害など起こっています。さらに東海、東南海、南海大地震も想定される下で、国民の消防・防災意識の高まりとともに、「安全・安心な地域で暮らしたい」という行政に対する、住民の願いと期待が強くなっています。

しかし、いま住民の期待や願いに応えられる消防体制になっているでしょうか。残念ながら消防現場は、法律で求められる基準の消防力すら満たしてはいません。それどころか国は、消防力の充実を求めながらも、消防の広域化、システムの共有化をすることで消防力の充足率を上げることや体制強化をすすめており、とても根本的な改善にはつながっているとはいえません。

自治労連は国民の生命、身体、財産を守る消防体制の充実のためには、①どの地域でも安全・安心に暮らせるように、地域の実情に応じた消防体制の充実を図ること、②高い専門性を活かして、活躍するためには、働きやすい職場環境・処遇改善が大切であり、その実現には労働基本権の回復が必要です。③そして労働組合や地域住民、消防職員のみなさんと一緒になって、これらのことを考え、取り組む、特に消防職員の高い専門性や知識を活かした取り組みをすすめていくことを願って、この政策提言(案)をまとめてきました。

この政策提言(案)を自治体、地域での消防政策づくりに活かしていただくとともに、消防職場・消防職員など消防行政関係者との懇談にとりくみ、消防力や消防体制の充実、それを支える消防職員の労働環境の改善をすすめていきましょう。

 

1.消防職場を取り巻く状況

2011年3月11日に起きた東日本大震災は、地震だけでなく津波、そして原子力発電所での事故をも引き起こす甚大な被害をもたらしました。全国から派遣された消防職員は人命や災害救助をはじめ、特に原子力発電所での放射線放出下での放水による原子炉冷却など、長期間、危険にさらされる事態も起きました。

また、地域では病院再編・統廃合などがすすめられており、救急体制が厳しい状況になっています。その中でも、命を救うために一刻を争う救急出動と病院関係機関と連携をとり、活動していますが、救急隊の出動件数は右肩上がりとなっており、体制と質の確保が困難な状況となってきています。

大規模な自然災害や事故などが発生し、想定の再検討やハザードマップの見直しなどがされる一方、消防体制は政府が定める消防力の整備指針による充足率は76.5%(2012年)となっています。5人乗車が必要な消防ポンプ車に4人ないし3人での出動、3人乗車の救急車も2人で出動するも常態化しています。

火災事故後の検証で、予防立ち入り検査できていなかったことがニュース(2012年福山市ホテル火災)になるなど、現場の努力の一方で予防の人員体制も不十分な状況があります。

こうした人員不足の背景には、自治体職員の定数削減が消防職場にも深刻な影響を与えており、慢性的な人員不足に拍車をかけています。政府は自治体合併や地方分権、道州制を推進するもとで、国のあり方を変え、ナショナルミニマム保障責任を放棄する動きは、消防職場にも影響をもたらしています。国主導の広域化推進で、1992年には935あった消防本部が2014年には752まで減少し、引き続き広域化を強行にすすめ、消防救急無線共同化・指令業務共同運用もすすめられています。広域化等で人員削減がすすめられるなど、矛盾も表面化しています。

この間、メディアで暴力、体罰の事件が取り上げられています。体罰を受けた被害者が自ら命を絶つなど、指導の名を借りた暴力、人権侵害は深刻です。東京消防庁の消防学校で研修生の顔を殴るなど暴力行為があったことが明るみに出ましたが、まだまだ氷山の一角です。

 

2.消防政策の基本

(1)国と地方自治体は、憲法・消防組織法に基づき、国民(住民)の生命、身体、財産を守る役割を果たします

1)消防は「その施設及び人員を活用して、国民の生命、身体及び財産を火災から保護するとともに、水火災又は地震等の災害を防除し、及びこれらの災害による被害を軽減するほか、災害等による傷病者の搬送を適切に行うこと」(消防組織法第1条)を任務としています。消防職員には、憲法の基本原則(平和的生存権、基本的人権、個人の尊重・幸福追求権、生存権、財産権、憲法遵守義務)がつらぬかれなければなりません。

また、国・自治体による消防体制の連携があってこそ、住民の自主的な防災活動が機能します。

2)国民保護法など、消防への「治安」「軍事目的」への利用は許さず、憲法および消防組織法に定める役割を発揮するようにします。

 

(2)住民の安全を守る職務に専念できるように消防職員の労働条件を確立します

1)消防体制の確立のためには、住民本位の消防行政の充実とともに、職員が安心して職務に専念できる賃金・労働条件の確立が統一して実現される必要があります。同時に、現在の日本において、治安の任にあたる警察と、消防では、その任務や目的、組織機構は全く異なるものです。消防職場に、憲法28条で保障された労働基本権に基づく労働組合を確立し、地域と職場の期待に応える運動を進めます。

注)自治労連は、行政組織としての警察にも将来的に労働基本権が確立される必要があると考えています。

 

2)階級制のもとにある消防職員委員会では、消防職場が置かれている問題点を率直に指摘し協議することは極めて困難です。労使対等の労働組合を確立し、職場に民主主義が実現されてこそ、職員は高い自覚と誇りを持って住民の安全・安心を守る消防行政に打ち込むことができます。労使対等の協議を保障し、消防政策の充実、労働安全など消防体制の確立につながる職場改善をはかります。

 

3.消防政策の具体案

(1)国は、消防施設・消防職員の最低基準を定め、地方自治体を支援します

消防組織法第4条

国は消防について、「消防庁は、消防に関する制度の企画および立案、消防に関し、広域的に対応する必要のある事務その他の消防に関する事務を行うことにより、国民の生命、身体および財産の保護を図ることを任務とする(消防組織法4条)」としており、この任務を達成するために、国は消防について次の役割を果たすようにします。

 

1)国は消防力について最低基準を示し、遵守を義務付けます。

① 消防施設、消防職員の配置基準、消防長、消防署長の資格要件等、国民の生命、身体、財産を守るナショナルミニマムを保障するために、地方自治体に対して、守るべき「最低基準」を示し、遵守を義務付けます。消防庁が定める「消防力の整備指針」を、市町村が遵守することが義務付けられる「消防力の最低基準」(仮称)に改めます。

② 最低基準には、最新の科学的知見で必要とされる人員・施設の配置を定めます。「出動から放水開始まで6分30秒以内とする」「1消防ポンプ自動車に搭乗する隊員数を5人とする」「消防署は2.8kmに1カ所の基準で配置する」「災害を事前に防ぐための予防行政を担う要員を確保する」など、実効ある基準を定めます。

③ 救急車の配置は、利用件数の増加ペースに追いついていません。車両を増やすことはもとより、医療機関との消防署、救急車が連携をとり、迅速に病院収容ができるなど適切に対応するために端末の整備できるよう財政措置、システム構築をすすめます。

④ 現行の「消防力の整備指針」が存続する場合であっても、「指針」には最新の科学的知見を反映するとともに、消防庁は「指針」の充足率が早急に100%達成するように地方自治体・消防本部に助言します。地域の実情に応じて必要な場合は、「指針」を上回る措置をとるように助言し、財政措置も行います。

 

2)国は、地方自治体における現行の「消防力の整備指針」を満たすように必要な財源を保障します。

① 消防体制について原則として市町村を単位に確立できるように財源を保障します。地方交付税の基準財政需要額に国が定める「消防力の整備指針」が的確に反映されるようにします。合併をした市町村においては、旧市町村の区域にも消防署が配置できるように算定します。

② 市町村において消防施設、設備、資機材、人員の配置を行うための国庫負担金、補助金を充実します。

 

3)大規模災害に備え、国、都道府県、市町村の相互応援体制を確立します

ⅰ)消防組織法39条(市町村の消防の相互の応援)に基づき、市町村間の相互応援協定を充実させます。

 ⅱ)国は、消防組織法45条(緊急消防援助隊)に基づき、都道府県、市町村と協力して大規模災害地に対する応援体制を充実させます。

 ⅲ)被災者の救援・救助は、国民の生命、身体、財産を守り、災害等による傷病者の搬送を適切に行うこと(消防組織法1条)を任務とする消防職員が担うことを基本に、他の行政機関、民間団体と連携して行うようにします。

 

4)国は、市町村の「消防力」の整備状況を把握し、「消防力の整備指針」の充足状況等について情報を公表します。

 

5)国は、災害情報など住民の生命、身体、財産に関わる重要な情報について、地方自治体と消防署に提供する義務を負います。特定秘密保護法による秘密指定は行いません。

 

6)国は「市町村の消防は、消防庁長官又は都道府県知事の運営管理又は行政管理に服することはない」(消防組織法36条)という原則を厳守します。国は、消防の広域化を市町村に押しけず、消防組織のあり方は、市町村が自主的に決められるようにします。

 

7)消防の「治安」「軍事目的」への利用を許さず、憲法と消防組織法に定められた住民の生命、身体、財産の保護を図ることを任務の基本にします。

 

(2)地方自治体は、住民に身近な消防体制を確立します

 市町村は「住民の福祉の増進を図る」(地方自治法第1条の2)役割と、「当該市町村の区域における消防を十分に果たすべき責任」(消防組織法第6条)を持っています。住民の生命、身体、財産を守り、住民に身近な消防体制を確立します。

1)市町村において、消防職員の充足率を国の定める最低基準まで満たします。市町村は、「消防力の整備指針」が示す基準を早急に100%へ満たすために、年次計画、数値目標を設定し、計画的に整備・人員配置を行うとともに、充足状況を住民に公開します。都道府県は市町村における充足率が100%を満たすように人的、財政的な支援を行います。

 

2)住民から消防を遠ざけ、消防機能を低下させる広域化を行わず、市町村の区域で消防本部・消防署を設置します。合併をした市町村は旧市町村の区域にも消防署を設置します。

 

3)地域、集落単位での耐震貯水槽を「消防水利の基準」(消防庁告示7号)に基づき、地域、集落単位で設置します。狭い道でも通れる中小型消防車、中小型救急車を配備するなど、地域の実情に合わせた設備・機具を配置します。

 

4)地域の医療機関、医療組織と連携し、救急医療体制を充実します。ドクターヘリ、消防ヘリ、防災ヘリなどの配置・運用体制を充実させます。

 

5)火災などの災害を未然に防ぐ予防行政を充実させます。予防行政を担う消防職員を専任で配置します。

 

6)住民や事業者等の自主的な防災活動と連携し、防災教育、防災訓練を充実させます。消防の再任用職員を活用し、長年の知識や経験を活かして、地域の防災教育、防災訓練の仕事が担えるようにします。

 

7)消防署と住民、地元事業者との連携を進めます。

 

(3)消防職員の基本的人権、労働基本権を確立します

1)消防職員の労働基本権を回復し、消防職員委員会制度を廃止します。

① 政府・自治体への働きかけを強め、憲法28条、ILO条約・勧告にもとづき、消防職員に団結権・団体協約締結権を回復します。

② 消防職員委員会制度は廃止します。他方で、業務運営、業務内容の改善のために、消防職場単位に管理職を含む全職員が参加する「職場会議(仮称)」を設けます。

③ 当面、現行制度の下でも消防職員委員会が消防職員の意見反映が十分される、実効性のある民主的な組織運営にします。

④ 職場に不団結と混乱を持ち込む「能力・実績にもとづく人事評価制度」の押しつけを許さず、民主的な人事・人材育成制度の確立を進めます。

 

2)職務に専念できる賃金労働条件を確立します。

① 住民の安全・安心を守るにふさわしい人員体制の確立

ⅰ)消防力の整備指針に基づく搭乗人員の確保、年休取得の保障に加え、3部制の運用を可能とする人員体制をめざします。

② 職務に専念できる賃金・労働条件の確立

ⅰ)当該自治体一般職員と同様の昇格・昇給基準を適用します。

ⅱ)無賃金拘束時間について、当面、深夜勤務の回数制限、拘束手当支給などの改善を図ります。

ⅲ)時間外勤務手当、夜間勤務手当、休日勤務手当を適正に支給します。

③ 安心して働くことができる安全衛生の確立・公務災害補償の充実

ⅰ)消火・救助・救急など消防活動に直接従事する職員を代表する委員が参加する安全衛生委員会の確立、さらに、当該自治体職場、または広域消防本部全体を網羅した「中央安全衛生委員会」を活用して、安全衛生体制の充実を図ります。

ⅱ)各消防本部単位で、惨事ストレスやハラスメント等によるメンタルヘルス不全に対応する方針、また、原子力・危険施設における働き方に関する方針を確立します。

④ パワハラ・セクハラ・暴力の根絶・男女平等の推進で働きやすい職場をつくる

ⅰ)職場のパワハラ・セクハラ・暴力に対応するために、民主的に選出された職員代表とともに、弁護士など第三者が参加する機関を設置します。

ⅱ)管理職を含む全職員を対象に、パワハラ・セクハラ・暴力の根絶、男女平等の推進をはかる研修を実施します。

ⅲ)希望する女性消防職員は、消火活動の現場への配置など登用します。

ⅳ)女性消防職員が安心して働けることができるよう施設・設備、労働環境を改善します。

⑤ 消防技術等の向上のための研修の充実、機会の保障

ⅰ)消防技術の向上や救急救命士資格取得などの研修を充実します。あわせて、消防学校や外部機関での研修機会を保障するための人的・財政的措置を拡充します。

⑥ 年金受給年齢の引き上げにともなう高齢期雇用の確立

ⅰ)定年延長を展望しながら、当面、希望者全員の再任用を進め、生活できる賃金を保障します。

ⅱ)再任用職員に対し、住民サービス拡充と合わせ、若年層の育成や地域の救命指導など年齢と経験にふさわしく働き続けられる業務の確立・拡充を進めます。

 

(4)消防団員が安心して地域の防災活動に従事できるよう条件を整備します

1)自治体の非常勤特別職職員である消防団員が、地域防災を担う職務に安心して従事できる条件を確立します。

 

2)消防団員は、行政や消防職員と連携し、住民に密着して、きめ細かに地域の防災対策を担うリーダーとしての役割が果たせるようにします。

 

3)消防団員の人員不足問題を解消します。

① 消防団員が安心して消防団に従事できる条件、労働安全衛生体制を確立します。

② 消防団員が本職での勤務時間中にも、一定の条件で職務を免除してもらい消防団活動が行えるように、自治体として事業者に理解と協力を求め、必要な支援を行います。

③ 自治体職員が消防団に加入しやすいように、自治体職員の人員不足の解消など職場の環境を整備し、参加しやすい条件をつくります。

④ 企業、官公庁等の定年退職者が参加しやすい条件をつくります。

⑤ 女性が参加しやすい条件をつくります。

自治労連 消防政策提言(案)