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特徴と問題 (3)すべての公務・公共サービスを対象に、底なしの規制緩和

(3)すべての公務・公共サービスを対象に、底なしの規制緩和
 「市場化テスト法案」の対象は、「国の行政機関等又は地方公共団体が自ら実施する公共サービス」(第1条)です。「すべての公共サービス」ですから、「聖域」はありません。しかも、対象業務を順次拡大していくことができる仕組みは「構造改革特別区域法」の制度と同じですが、(1)で述べたように国や自治体の判断より財界と民間企業の意向を優先すること、その障害となる規制の緩和を同時進行させる仕組みは、これまでの制度ではみられない特徴です。
 
<当初より実施対象とされる業務>
 当初より実施される業務は、国の直営業務では、2005年度から試行実施{された社会保険庁関連業務、ハローワーク関連業務、行刑施設関連業務の対象をそれぞれ拡大するほか、新たに総務省が管轄する統計調査関連業務を加えました。

新たに独立行政法人である科学技術振興機構、日本学生支援機構、雇用・能力開発機構、中小企業基盤整備機構、航海訓練所、鉄道建設・運輸{設整備支援機構の事業が対象とされました。

自治体業務では、戸籍謄本、外国人登録原票写し、住民票写し、印鑑登録証明書、納税証明書等の交付請求の受付と引渡しを対象にしました。

以上は、あくまで当初の対象業務であり、今後財界や民間企業、自治体等の要望をもとに際限なく拡大されることは先に述べたとおりです。

ちなみに「法案の骨子等」では、民間企業等から提案があり、実施対象として検討している自治体業務として「地方税、国民健康保険・介護保険料の徴収・回収業務支援」「各種使用料等の公金徴収業務」「水道事業、下水道事業」「地下鉄、鉄道、バス事業」「パスポート発行業務」等を挙げています。また全国総務部長会議等(2006年1月)において自治行政局長が「公営企業の市場化テストも日程にのぼっている」と明言しています。

 
<当初より実施対象とされる業務>
 市場化テストによって民間企業等が落札した場合には、一般的に適用される規制緩和の特例「通則特例」)と、個々の公共サービスを規定する個別法の規制を緩和する特例(「特定公共サービス」)の2種類の規制緩和特例が設けられています。とくに特定公共サービスの対象事業と規制緩和特例については、今後、民間企業等や自治体からの要望に基いて拡大されていくことが特徴です。
●通則特例
(1) 債務負担行為の期間に特例を設け、契約期間を「10年以内」に延長すること(第30条)。
「国が債務を負担する行為に因り支出すべき年限は、当該会計年度以降5箇年度以内とする」(財政法第15条3項)とされている年限を特例的に延長するものです。
(2) 国家公務員退職者手当の在職期間に特例を設けること(第31条)。
退職手当の特例は(7)を参照してください。
 
●「特定公共サービス」に選定することによる規制緩和
(1) 職業安定法の特例…民間企業等による職業紹介事業の取り扱い範囲を制限する職業安定法の規定を適用しないこととすること(第32条)
(2) 国民年金法等の特例…国民年金保険料の給付請求業務については、弁護士以外のものであっても実施できるよう措置するとともに、実施に当たっての行為規制等を適用すること(第33条)。
(3) 戸籍法等の特例…戸籍法等に基づく戸籍謄本等の交付の請求の受付及びその引渡し等の業務を民間企業等も行えるように措置すること(第34条)。
 
 戸籍法等の特例に関する問題は(6)で指摘しています。
「特定公共サービス」に対する規制緩和の特例は、法律、政令、通達等によって「公務員しかできない」などと規定している制限の緩和ですが、「施設基準、職員配置基準等についても規制緩和の対象になりうる。その規制が必要かどうかを今日時点にたって見直すことも必要である」と内閣府市場化テスト推進コは明言しています。しかも小泉内閣が昨年12月に閣議決定した「行政改革の重要方針」では、国が定数基準を設ける教育・消防・警察・福祉関係について「基準を見直す」とし、学校給食や保育所などに設けている職員配置基準を引き下げる意図を明確にしています。このことをみるならば、市場化テストの実施を通しても、国民の安全や安心、一定水準の公共サービスの質を確保のために設けられた基準がどんどん引き下げられる恐れがあります。
 
<「先進自治体」を梃子に、全国水準を引き下げる仕組み>
 自治体業務のなかから「特定行政サービス」を選定し、規制緩和措置を設ける場合、民間企業等の意見を聴くことと同時に、「地方公共団体の意見を聴くものとする」(第7条5項)とされています。この場合の「地方公共団体」とは「競争の導入による公共サービスの改革に関する措置を講じようとする地方公共団体」(「法律案の概要」)であり、その業務を市場化テストの対象として規制緩和することについての是非を広く地方六団体等や自治体から聴くものではありません。

しかも規制緩和の効果は、当該ゥ。体だけでなく、すべての自治体に及びます。構造改革特別区域法の場合だと、規制緩和の適用は当該自治体に限定されていますが、市場化テスト法案の場合、たとえば東京都足立区が提案した「戸籍事務及び外国人登録事務の委託範囲の拡大」が、規制改革・民間開放推進会議の第4回主要課題改革推進委員会において、住民票の写し、印鑑登録証明書、納税証明書、戸籍の附票写し等も付け加えられ、「住民票交付等にかかわる窓口業務」を特定公共サービスに選定し、しかも提案者である足立区だけに適用するのでなく、すべての自治体に適用されます。つまり国以上に急進的な自治体の動きを梃子にして、全国的に、行政サービス水準の引き下げを含む規制緩和を推進することも市場化テスト法案の特徴です。


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