住民とともにあゆむ自治体病院をめざして
1. はじめに
自治体病院は、地域医療の中心として住民の命と健康を守る大きな役割を果たしています。しかし今、多くの病院が経営赤字や医師不足など深刻な課題に迫られています。そして患者・住民のみなさんからは「わが町の病院をなくさないで」「採算・効率よりも安全・安心の医療を優先して」という切実な声が寄せられています。
いまこそ、住民のみなさんと自治体労働者が共同して、地域医療を守り充実をめざす運動をすすめていくことが求められています。
2. 「採算」「効率」ばかりでいいのでしょうか
現在、自治体病院は全国に約1000あり、全病院の1割を占めています。地域医療の中核的病院として、また、民間の医療機関ではと りくみにくいへき地医療、高度・特殊・先駆的医療や、精神、救急、リハビリテーションなど不採算といわれる分野の医療を担うなど、住民の命と健康を守るた めに大きな役割を果たしています。 しかしいま、自治体病院は大きな危機に直面しています。
自治体病院は、6割以上が赤字経営となっています。この背景には、診療報酬の実質マイナス改定や政府の低医療費政策、また不採算医 療を担っていることに対する国の財政措置が削減されてきているこ とも影響しています。
こうしたなかで国は、「官から民へ」という小泉「構造改革」の政策目標に沿って、自治体病院の再編・統廃合・民間委譲や、「効率 化」を最優先する運営形態への変更をすすめる政策をとり、いま全国でその具体化があらわれています。
「いのちよりも採算第一でいいのか・・・。」そんな不安や危惧の声が住民や関係者から上がっています。
![]() 大阪府は財政難を理由に、府立 5病院を府立直営から地方独立行政法人に変更しようとしていま す。地方独立行政法人とは、自治体が行っている仕事のうち、採算性に乏しく民間企業が実施しにくいものを自治体から切り離し、別組織にするものです。経営 面での「独立性」を強調し、人件費や運営費の切り下げをはかり、利用者負担を強めることがねらいです。 先行して2004年4月から独立行政法人に移行した国立病院では、正規職員とまったく同じ仕 事をしていた「賃金職員」といわれる非正規職員の雇い止めや短時間パートへの置き換えなどが強行されました。その結果、ある病院では看護助手が減ったた め、患者の入浴が週2回から1回になったり、看護師が看護助手業務をやらざるをえなくなり、その分本来の看護業務が手薄になるなどの事態が生じています。 |
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3. 身近な病院がなくなる?
4. 医師・看護師が足りない!
![]() 深刻な医師不足
茨城・筑西市民病院(旧・下館市民病院)では、経営難と医師不足が深刻化しており、今後の病院運営と医師確保にむけた早急な対策が求められています。
とくに医師不足は、新医師臨床研修制度の導入により医師が大学によび戻され、以前は25名いた医師が現在15名に減少しました。そのため診療科も10科(内・外・脳・整・泌・産婦人・児・形成・耳鼻・眼)が1科(耳鼻)の休診、2科(脳・眼)が非常勤化となり、常勤医師のいる科は7診療科に減少し、それに伴い病床数も206床から173床に縮小されました。 市・病院当局は医師確保にむけて近隣の大学を訪問し医師派遣を要請していますが、問題の打開には至っていません。そして、診療科・病床数の減少により医療収益が激減し、赤字の増大も生じています。 また看護師についても退職者の不補充により、パート職員にゆだねている状況です。 筑西市職員組合病院支部では、医療体制の充実を求めて市議会議員への要請行動などにとりくんでいます。
看護現場はもう限界!
死ぬまぎわのささやかな望みさえもっと傍にいて思うとおりにしてあげたいと思っても2人の準夜勤務では、時間が許すはずもなく、次の患者さん、次の処置に行かなければならない。2日後の朝、この患者さんが亡くなった。死ぬまぎわのささやかな望みさえ、叶えてあげることができない悔しさ、腹立たしさ。 私が行くまで、転ばないで!2人夜勤をしている。リハビリ病棟で、介助者が多く、プラス整形からの圧迫骨折で動けない患者さんでいっぱい。夜間鳴り響くナースコールの数。ピッチを切っても切っても次々鳴る。思わず目を疑った。ピッチの画面が「混み合ってます」と出た。「アレ?」と廊下に出たら病室の前のランプが4ヵ所光っていた。1人で4人同時にはいけない。 |
5. 「命の沙汰もカネしだい」の医療制度大改悪
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政府は2006年の国会で医療制度「改革」関連法案を提出する予定です。 その① 団塊世代をターゲットにした高齢者医療の改悪
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その② 長期入院の食費・居住費を全額患者負担に 介護保険の改悪にならって、月3万円程度の負担増が検討されています。一般入院も、保険から給付される「食事療養費」の減額が検討されており、現行の患者標準負担額1日780円引き上げの可能性もあります。 |
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その③ 風邪、腹痛などは全額患者負担に かぜ薬、ビタミン剤、漢方薬など一般に市販されている薬を保険給付の対象から外す、風邪や腹痛など低額な医療費は全額患者負担(保険免責制度の導入)にする、終末期医療については患者負担を増やして受けるかどうかの選択を迫る、などさまざまな案が検討されています。 |
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その④ 患者負担の月額上限の引き上げ(高額療養費制度の改悪) 高額の医療費を払った人に対し一定の差額を払い戻す高額療養費制度がありますが、その上限を引き上げることが検討されています。
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負担増だけではない政府の医療改悪計画 | |||
その① 都道府県単位で医療費抑制を競わせ、保険料に格差 政府管掌健康保険(政管健保)、国民健康保険(国保)、高齢者医療制度などの医療保険制度を、都道府県単位を軸に再編する計画です。 |
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その② 「混合診療」や株式会社病院で医療をもうけの対象に 医療保険で必要な医療を保障するというのが皆保険制度の原則です。ところが政府は、「混合診療」といって保険のきかない医療を増やし、医療費への公的負担を減らそうとしています。患者負担が大幅に増えることになり、ガンの特効薬や最新の医療技術を受けられるのは負担増に耐えられるお金持ちだけになってしまいます。 |
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6. 「有事」になったら病院は軍事最優先・・・
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戦争の中で医療は・・・ いまの日本の医療は、現実にはさまざまな課題はありますが「国民一人一人の命が何よりも大事」という理念が大前提となっています。 しかし、かつての軍国主義の時代には、何もかもが軍事最優先にされ、国民にとっての医療は壊滅状態でした。 |
医療従事者は戦場へ、そして「加害者」にも・・・ 戦争中、多くの医師や看護師が戦場に送られました。重症者や痛みでうめく兵士を置き去りにしたり、注射で「処分」して進みました。 医療関係者で組織された日本軍731部隊は、中国で敵兵や現地の人たちを使って生体実験・生体解剖を行うなどの残虐行為をおこないました。 国内では極端な医師・看護師不足になりました。そのうえ病院のベッドは軍隊最優先となり、多くの一般入院患者が追い出されました。医薬品や衛生材料も不足し、食糧不足も重なり、結核や伝染病が蔓延しました。 国民の「医療を受ける権利」は、戦争の中ではまったく保障されていませんでした。 ![]() |
いま、「戦争動員法」による「戦時体制」復活の危険が・・・ 「そんな悲惨な時代は、もう遠い過去のもの・・・。」多くの人はそう思っています。しかしいま、「戦時体制」が再び復活する危険があるのです。 国会で2003年6月「有事関連3法案」が、2004年6月「有事7法案」が成立しました。その内容は、政府が「有事=武力攻撃事態」だと判断すれば、国民に戦争協力を強制し、運輸・医療・建設などあらゆる業種の労働者を戦争に動員し、それに協力しない国民は取り締まるというもので、まさに「戦争動員法」です。 「有事」となれば、病院など医療機関は真っ先に政府の管理下におかれ、医師・看護師など医療従事者は「業務従事命令」によって戦争動員を強いられることになります。 国内の日赤病院、国立・自治体病院などでは、負傷兵の治療の準備をするよう指示されます。負傷兵が送られてきたら、治療は軍隊優先となり一般患者は追い出されます。 ![]() |
国民「保護」の名目ですすむ監視と統制 さらに、「戦争動員法」にもとづいた「国民保護計画」が都道府県で制定され、今後はすべての市町村でも「国民保護計画」が策定されようとしています。 「国民保護計画」には、自衛隊と一緒になった「有事訓練」に住民を動員したり、住民どうしで監視し統制しあう仕組みをつくることが盛り込まれようとしています。 日本が攻撃されることを前提にした「計画」づくりよりも、攻撃されないために憲法9条を生かした平和外交や核兵器廃絶のための努力をすることこそが大事なのではないでしょうか。 ![]() |
![]() かつて侵略戦争をおこした反省をふまえ、戦後に制定された日本国憲法第9条には戦争放棄と戦力を持たないことが規定されました。これほど明確に「戦争はしない。武力は持たない」と記した憲法は世界中にも例がなく、まさに「日本の顔・世界の宝」です。この憲法9条のおかげで、戦後60年間日本は一人も戦争で人を殺すことも殺されることもありませんでした。 ところが今、その憲法9条を変えようとするうごきが強まっています。自民党の「改憲案」では、「自衛軍を保持する」と明記したり「戦争放棄」の言葉を削るとされています。民主党でも憲法9条の変更を含めた改憲案づくりが検討されています。こうした憲法9条改悪のねらいは、日本をアメリカに従って「戦争をする国」に変えることにあります。 その一方で、憲法9条を守ろうという運動も大きく広がってきています。作家の大江健三郎さんなど9人の著名人がよびかけた「九条の会」アピールに賛同する人々が、全国の地域・職場・学園で「会」をつくり、地道な運動をしています。 いまこそ憲法9条を守り生かすために、私たちの職場でも「○○病院九条の会」などをつくり、職場・地域から草の根の運動を広げていきましょう。
第二十五条【生存権、国の生存権保障義務第九条【戦争放棄、軍備及び交戦権の否認】
1.日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。 2.前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。 |
7. 健康で安心してくらせる地域医療・まちづくりを
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保健・福祉・医療を一体としたまちづくりを 自治体病院を中心にした「健康まちづくり構想」を展開させている自治体があります。保健・福祉・医療を機能的に連携させ、高齢者の生きがいづくりを組織し、独自の移送網・在宅支援を支える訪問看護システムを充実させています。 |
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住民・患者の声を生かして地域医療・病院の改善・充実を 自治体病院は、住民からの信頼なくしては存在できません。住民の医療ニーズ、病院への要望・苦情などを聞き取り、それを医療改善や病院の運営に生かしていくことが大事です。 |
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地域・職場から 病院政策づくり運動を 深刻な財政状況にある今日では、病院「合理化・効率化」の攻撃に対して、ただ「反対」をいうだけの運動では十分な反撃にはなりません。住民・患者と病院労働者の立場からの提案型運動にしていくことが大切です。 |
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具体的な攻撃に対しては住民共同を強めてたたかおう 地域医療の後退や自治体病院の役割否定につながる運営形態見直しや再編統廃合など具体的な方針が当局から出されたら、地域住民と共同してたたかう体制をつくっていくことが必要です。 |
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