民間大企業における「偽装請負」が、政治的・社会的に大きな問題となっています。請負・派遣労働者が立ち上がり、全労連などの運動とあいまって、直接雇用を勝ちとったたたかいが相次いでいます。「偽装請負」の是正を求める国会での追及やマスコミ報道、国民世論の高まりのなか、厚生労働省・労働局も是正指導を強めています。
ところが、もっとも社会的公正さが要求される国や自治体の職場でも、「行政改革」や「財政危機」を理由に、「偽装請負」「違法派遣」や最低賃金すら下回る低賃金・不安定な雇用が広がっています。しかも職員定数の削減や賃金引下げでは直接介入する総務省が、このような自治体での違法・不当な雇用を是正する指導は、皆無に等しい状況です。
自治労連は、早くから、学校給食調理や図書館等の窓口業務の業務委託は「偽装請負」にあたるという見解を明らかにして民間委託とたたかってきました。「格差と貧困」の拡大への批判を背景にした今日的課題でも、昨年12月の春闘討論集会で、「偽装請負」を解消するための「問題提起」をおこない、今年1、2月には地方組織や自治労連弁護団とともに「自治体現地調査」を実施しました。
地方組織や単組でも、「偽装請負」をなくして労働者の雇用を守る課題を、公共サービスを守る課題と結合させた群馬県玉村町、栃木県野木町、兵庫県丹波町でのたたかいなど、大きく前進しています。
厚生労働省通達を受けて、各地の労働局も、自治体職場への積極的な調査、是正指導に乗り出しています。
自治労連は、「問題提起」と「自治体現地調査」、地方組織や単組のたたかい、さらに厚生労働省・労働局による監督・指導の強化、国民世論の高まりなどの情勢の発展をふまえ、自治体の民営化・市場化を許さず、住民の権利と暮らしを守るたたかいにとっても重要な課題として、自治体職場における「偽装請負」「違法派遣」を解消するための方針を確立し、違法・不当な雇用を自治体から一掃するために、全力を挙げてたたかうものです。
1.「偽装請負」「違法派遣」をなくす取り組みの今日的意義 ―― 「貧困と格差」の是正、「働くルール」の確立をめざして
不安定・低賃金労働の野放しを許さず、「人間らしく働くルール」の確立を
政府・財界が構造改革・規制緩和を推進するなかで、「格差と貧困」が拡大し、劣悪な労働条件と不安定な雇用形態で働く非正規労働者が急増し、いくら働いても貧困から抜け出せない「ワーキングプア」を作り出しました。この「格差と貧困」の拡大の根底に、有期雇用の規制緩和や労働者派遣事業の原則自由化、製造業への派遣解禁など、労働法制における規制緩和があることは明白です。
「格差と貧困」を是正するためには、賃金の底上げ・均等待遇の実現、長時間労働の規制など、「人間らしく働くルール」の確立こそが、急務です。
ところが政府は、あくなき利潤を求める財界・大企業の言いなりに、「労働ビッグバン」と称する労働時間規制の緩和、派遣労働の期間制限の撤廃などの労働法制の改悪をいっそうすすめようとしています。
労働規制をさらに緩和して、労働者をモノ同然に扱う低賃金・不安定雇用や長時間労働を野放しにするのか、それとも社会的規制を強化して「人間らしく働くルール」を確立するのかは、日本の将来をめぐる重大な争点になっています。
「格差と貧困」や「ワーキングプア」への国民の関心と批判が広がるもとで、自治労連は、この情勢の有利な変化を生かし、「偽装請負」「違法派遣」を一掃し、「格差と貧困」の是正、実効ある「働くルール」の確立のために、公務や民間の違いをこえて、すべての労働者の共通の課題としてたたかいます。
違法・不当な働かせ方を規制する柱に
「偽装請負」「違法派遣」をなくし、直接雇用を実現するたたかいは、違法・不当な働かせ方の規制、「格差と貧困」の是正、「働くルール」確立のたたかいの重要な柱の一つです。
「直接雇用原則」は、労働法の民主的な原則として、国際的にも確立されています。「直接雇用原則」とは、労働者を実際に雇用し労働力として利用しているものが使用者としての責任を負う原則です。他方「間接雇用」は、労働者の賃金をピンハネする構造であり、雇用の不安定化と労働条件の悪化の要因になり、労働者の基本的権利が奪われるおそれが強い雇用関係です。だからこそ、1986年の労働者派遣事業法の制定によって「間接労働」である労働者派遣が認められたとはいえ、政府も「臨時的、一時的なものであり、常用雇用の代替にしてはならない」と国会で答弁し、対象業務の限定、期間制限を設け派遣先がその期間をこえて働かせる場合は直接雇用の申し入れ義務が発生することなどの規定を定めているのです。
しかし、現実には恒常的な業務に常用雇用の代替として派遣する「違法派遣」や、実態は労働者派遣なのに、労働者派遣事業法や職業安定法の基準・条件から逃れるために、業務請負の形式を装う「偽装請負」が横行しています。
2.自治体職場における実態とたたかいの到達点
自治体職場にも蔓延する違法・不当な雇用
自治体職場における「偽装請負」「違法派遣」は、労働法制における規制緩和と、公務の民間委託を車の両輪として広がってきました。
自治労連の「自治体現地調査」によっても、その実態が明らかになっています。
「行政改革」のお手本とされる愛知県高浜市では100%出資の受け皿会社を設立し、請負と派遣を併用し、「最初は派遣、仕事に慣れれば請負に切り替え」という、労働者派遣の制度を無視した運用がなされています。大新東ヒューマンサービスに保育士の派遣を請負契約で委ねている広島県安芸高田市では、仕事の指示の分離が不可能な保育所現場であるため、偽装請負であることが明らかになっています。このような「業務委託」という名目での「偽装請負」の実態が、多くの自治体に蔓延しているものとみられます。
しかし、たとえ国による「行政改革」の押し付けや厳しい財政状況があるとはいえ、住民福祉の増進を図ることを基本とする自治体が、自らの違法・不当な雇用によって「ワーキングプア」を生みだすという異常な事態を、何としても正さなければなりません。しかも偽装請負・労働者派遣は自治体が確保すべき公共性、専門性、継続性、総合性を内部から突き崩すことになります。住民に対する総合的で効果的な窓口サービスを実施するうえでも、端末処理等での住民のプライバシーを保護するうえでも、子どもや保護者との安定した関係に基づく保育を実施するうえでも、このような雇用形態が問題となり、是正が求められているのです。ところが「偽装請負」の実態を指摘されると、請負契約から派遣契約へ切り替えて是正指導から逃れようとする自治体が相次いでいます。そもそも「偽装請負」の多くは「違法派遣」を避けるために請負契約を装っているのであり、「派遣」への切り替えは不法・不当な雇用の上塗りであるとともに、「3年を超えると直接雇用」という派遣労働者の権利すら侵害する行為といわざるをえません。
しかも自治体のなかには、東京都足立区のように「請負契約であっても直接、仕事を指示できるように」「最長3年までという派遣期間を無制限か、延長してほしい」などと、財界顔負けの労働規制緩和を市場化テスト法に基づいて政府に要請する動きがあります。自治体の基本的責務を取り違えているといわざるを得ません。
「偽装請負」を「派遣」に切り替えることは二重三重の誤り
「偽装請負」の是正指導逃れのための派遣契約へ切り替えは、違法行為の上塗りであり、自治体がこのような行為をおこなうことは、二重三重の誤りです。
なぜなら、一般的にいっても、第一に今日の雇用破壊・賃金破壊という情勢のもとで、中間搾取の温床となる「間接雇用」を規制することが優先課題であること、第二に労働者派遣事業法で保障する派遣労働者の直接雇用への道をふさぎ、厚生労働省課長通達(07年3月1日付)の趣旨に反すること、第三にそもそも「偽装請負」は「違法派遣」逃れのために「請負契約」を装ったものであって、「派遣契約」に変えたからといって別の違法状態をつくるだけであるからです。
ましてや、社会的公正、法令順守が強く求められる自治体が、違法な「偽装請負」を解消するために、何の責任もない派遣労働者の直接雇用への道をとざすことは、許されることではありません。
派遣労働は、自治体職場になじまない
そもそも派遣労働は、自治体職場にはなじまないものです。
なぜなら第1に、自治体の職場で公務員の指揮命令のもとに民間労働者が公務に従事するならば、事故等に対する責任の問われ方、「公務災害」「労働災害」の適用の違いなど法適用の問題が生じます。総合的・集団的に業務をおこなう自治体職場において、労働関係法の適用が違い、自治体が直接雇用していない「間接雇用」の労働者と共同で業務をおこなうことを、地方自治法・地方公務員法は想定していません。
第2に、とりわけ公務員と民間労働者が混在して仕事をする職場では、自治体に求められる住民の安全・安心、プライバシー保護などの専門性・継続性・総合性が確保できなくなるからです。たとえば自治体現地調査では、保育士や調理師等の派遣労働者の健康状況を園長が逐一把握できないこと、住民のプライバシー保護が契約でしか保障されていないことなどが明らかになっています。派遣契約の場合、自治体が公務に従事する労働者を特定ができないことも、公務の専門性や継続性からみて問題です。
第3に、労働者派遣事業法によると、一定期間をこえて働かせる場合、直接雇用の申し入れ義務が派遣先の事業主に発生します。したがって自治体であっても、一定期間をこえた派遣労働者を直接雇用=「任用」する義務が発生します。もしそのことが「成績主義の原則による任用」を規定している地公法に抵触するというならば、地公法が適用される職場に派遣労働者を入れるべきではありません。
厚生労働省・労働局による是正指導の新たな展開
日本共産党の市田書記局長が、参議院本会議で、日本経団連の御手洗会長が違法な偽装請負を「労働者派遣法が悪い」と開き直って合法化を求めていることを追及し、安倍首相から「派遣会社だけでなく、派遣労働者を受け入れている企業にも厳格に指導する」との答弁を引き出し、穀田議員が衆議院予算委員会分科会で、自治体での偽装請負を追及し、柳沢厚労大臣から「民間であれ公的な団体であれ、不安定雇用を促進することは労働行政の上ではまったく望ましくないことだ」との答弁を引き出し、厚生労働省・労働局の是正指導の強化につながっているように、労働者のたたかいと連動した国会内での論戦が、「偽装請負」に対する国の労働行政を動かしています。
厚生労働省と労働局の監督と是正の強化で注目されるのは、第一に、派遣先の労働者による請負労働者への指揮命令の問題とともに、「労働者派遣事業と請負により行われる事業との区分基準(昭和61年4月17日労働省告示第37号)」(以下、基準)を厳格に適用する傾向になっていることです。その典型例として、埼玉労働局が、埼玉県北本市への是正指導において「備品を市が無償貸与している」点を指摘し、兵庫労働局が、兵庫県丹波町の調理業務の民間委託計画に対して「市が購入した食材を受託業者に提供する」方法は、基準に照らして疑義があると指摘していることです。この兵庫労働局の指摘は、学校給食調理業務の民間委託の多くが請負契約でおこなわれている現状をふまえると、給食委託に反対するたたかいでも、すでに委託されている給食業務を直営に取り戻すたたかいにとっても、また他の業務における民間委託とのたたかいにとっても、大いに活用できるものです。
第二に、「偽装請負」の是正指導に関する厚生労働省の方針が「派遣可能期間の制限にすでに抵触している労働者派遣に対しては、特に厳正に指導すること」として、派遣への切り替えを認めず、直接雇用などへの指導強化に踏み込んだことです。キャノンなど民間大企業が、偽装請負逃れの手段に派遣への切り替えを使っていることに対して、請負・派遣労働者のたたかいと国会での追及によって、これまで容認してきた方針を転換し、厚生労働省職業安定局需給調整事業課長の通達(2007年3月1日付)を出して全国の労働局に周知したものです。
前進する地方組織・単組の取り組み
こうした情勢の変化を受けて、地方組織・単組の取り組みも前進し、貴重な成果を作り出しています。
たとえば栃木県野木町では、大新東ヒューマンサービス株式会社の派遣保育士を全国で初めて町が直接雇用する嘱託保育士に切り替えさせ、また群馬県玉村町では「地公法の脱法的任用の是正」を理由に、町の臨時・嘱託職員203名全員を雇い止めにし、派遣会社に移籍させる計画を、「偽装請負」「違法派遣」になるという追及によって撤回させ、全員の雇用を守りました。
学校給食の民間委託に反対するたたかいでも、兵庫県丹波町で学校給食センターの民間委託を延期させ、当面、市の直営で稼動させる成果を勝ち取りました。この取り組みは愛媛県松山市をはじめ各地に広がっています。
自治労連の地方組織や全労連、公務労組連がおこなってきた自治体キャラバンでも、自治体の直接雇用である臨時・嘱託等の非正規職員の賃金が、その地域の民間パート労働者の賃金よりも低く、賃金底上げの障害となっている状況を指摘し、改善を勝ち取っています。
3.たたかいの基本的な視点、たたかいの柱
基本的な視点
自治体職場から「偽装請負」「違法派遣」をなくすことの意義は、「格差と貧困」「ワーキングプア」の主要な要因となっている不安定・低賃金の雇用を是正させるという一般的意義に加えて、住民の暮らしと権利を守る公務公共サービスの質を確保するという自治体固有の意義をもっています。
したがって「偽装請負」「違法派遣」をなくす取り組みを、公務公共サービスの改善・向上、公共サービスに対する自治体責任の明確化を求め、公務公共関係労働者の雇用・賃金・労働条件の改善をはかり、組織化を結びつけてたたかうことを基本的な視点とします。
たたかいの第1の柱 ―― 自治体職場から「偽装請負」「違法派遣」を一掃することを求める
自治体などの公務公共職場は、社会的公正と法令順守がもっとも求められます。たとえ国などから「行政改革」や「財政危機」の押し付けがあろうとも、自治体が自らの責任で違法・不当な雇用をおこなうことは、許されません。
自治労連は、このような異常な実態を是正し、自治体が雇用においても地域で範を示せるように、自治体職場から「偽装請負」「違法派遣」を一掃し、違法・不当な雇用をなくすことを国と自治体当局に求めるとともに、その実現のために全力を尽くします。
たたかいの第2の柱 ―― 派遣への切り替えではなく、直接雇用を求める
「偽装請負」の解消にあたって、派遣契約への切り替えに反対し、自治体による直接雇用への転換を求めるとともに、その実現のために全力を尽くします。
一定期間をこえて雇用している場合、現に自治体業務に従事している請負・派遣労働者を直接雇用することは、労働者派遣法によって使用者に課せられた義務です。「地方公務員法上の課題」があるにしても、請負・派遣労働者に責任を転嫁して労働者の権利を奪うことは許されません。自治体の直接雇用に改めることが優先的な課題であるとの立場から、正規職員として雇用することを基本要求としつつ、当面、非正規職員であっても自治体に直接雇用することを優先課題として要求し、その実現を図ります。
4.具体的な取り組み
本部の取り組み
(1)方針の徹底、政府関係省庁への要請、国民世論の喚起
1)「自治体職場における『偽装請負』『違法派遣』解消に向けた取り組み方針」「自治体現地調査の報告まとめ」「参考資料」をまとめた冊子として、4月上旬に発行します。
2)自治体職場において「偽装請負」「違法派遣」が蔓延している実態と、そのことが公務公共サービスに悪影響をもたらす問題を広く国民に知らせ、世論喚起をおこないます。また「偽装請負」を是正するために、国会内での論戦との連携を強めます。
3)自治体職場における「偽装請負」「違法派遣」の解消に向けて、総務省・厚生労働省などの関係省庁へ要請・要求します。
(2)労働者派遣事業法の改悪を許さず改正を求める行動
1)全労連とも連携し、労働者派遣のさらなる規制緩和を許さず、「派遣は臨時的、一時的なもの」という労働者派遣法の本来の趣旨と派遣労働者の権利保障の徹底を求める改正を要求して運動を強化します。
2)労働者派遣は、自治体職場になじまないものであることから、その適用除外を関係法令で明確にすることを提案し、実現を図ります。
地方組織・単組の取り組み
1)自治体当局に対して、「要求書(雛形)」を提出し、懇談し実態をつかみましょう。そして「偽装請負」「違法派遣」の解消を求め、交渉などをおこないます。
2)派遣・請負労働者に対して対話と懇談をおこない、「偽装請負・違法派遣のチェックの視点」(○○ページ参照)を参考に委託・請負・派遣契約の点検・見直しをおこない、要求実現の取り組みを結合してすすめます。
3)「偽装請負」「違法派遣」の解消を口実に、請負・派遣労働者を解雇するおそれがあるもとで、厚生労働省通達(平成19年3月1日 資料○○ページ参照)にもとづき自治体への直接雇用(非正規職員であっても)を求め、請負・派遣労働者には雇用問題の解決と労働条件改善のためには労働組合が必要であることを訴え、自治体(公務公共)一般労組などを活用して組織化と結合して取り組みます。