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東日本大震災で発生した災害廃棄物の広域処理について

2012年4月5日

東日本大震災で発生した災害廃棄物の広域処理について


日本自治体労働組合総連合
書記長 猿橋 均

1 災害廃棄物は、放射性物質に汚染されたものと、そうでないものを区別するべき

 東日本大震災で発生した災害廃棄物の広域処理への対応に、全国の自治体当局が逡巡(しゅんじゅん)をしている。国は、岩手県・宮城県の災害廃棄物2045万tのうち、約20%にあたる401万tの広域処理を全国の自治体に要請している。広域処理の対象となる災害廃棄物については、放射性物質に汚染されているものと、そうでないものとを区別してとらえる必要がある。自治体が対応に逡巡している最大の理由は、言うまでもなく福島第一原発事故に伴う放射性物質による汚染問題にある。通常の廃棄物は一般廃棄物処理の基準に基づいて処理をすればよいが、放射性物質に汚染された廃棄物の処理については、IAEA(国際原子力機関)が示した国際基準及び原子炉等規制法の定める基準に基づかなければならない。

2 自治体が処理する廃棄物は、放射性物質に汚染されたものは対象外とされている

広域処理を担当する環境省が所掌する「環境基本法」第13条は、「放射性物質による大気の汚染、水質の汚濁及び土壌の汚染の防止のための措置については、原子力基本法その他の関係法律で定めるところによる。」とされ、放射性物質は適用除外となっている。また、地方自治体における一般廃棄物処理の根拠となる「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」も、第2条で「この法律において廃棄物とは、こみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染されたものを除く。)をいう。」とされており、放射性物質により汚染されたものは処理の対象にはなっていない。

3 IAEAの示す埋め立て処分の基準は100ベクレル/㎏以下

放射性物質に汚染された廃棄物の処理は、封じ込め、拡散させないことが大原則である。IAEAの国際的基準では放射性セシウム濃度が100ベクレル/kgを超える場合は、特別な管理下に置き、低レベル放射性廃棄物処分場に封じ込めなければならない。原子炉等規制法でも、原子力発電所内で発生した廃棄物のうち、そのまま再利用や埋め立て処分ができるとした基準(クリアランスレベル)はIAEAの国際基準に基づき100ベクレル/㎏以下と定め、福島第一原発事故が発生するまでは当たり前に適用されてきた基準である。

4 安全性を証明することなく、国は8000ベクレル/kg以下を埋め立ての基準に

福島第一原発事故後、福島県内で1万ベクレル/kgを超える放射性物質が下水道汚泥から検出され、関東一円でも下水道汚泥の焼却灰から1万ベクレル/kgを超える放射性物質が検出された。また、岩手県一関清掃センターごみ焼却施設の飛灰から3万ベクレル/kgの放射性セシウムが検出された。こうした事態に直面した政府は、安全性についてまともな説明をすることなく、これまで国が定めてきた基準(100ベクレル/㎏)の80倍にあたる8000ベクレル/kg以下を通常の埋め立て処分ができる新たな基準とした(環境省「東日本大震災により生じた災害廃棄物の広域処理に係るガイドライン」2011年8月)。今回の広域処理方針は、この基準を引き写したものであり、安全性については全く証明されていない。8000ベクレル/kgの放射性セシウムを含む廃棄物が100ベクレル/㎏未満となるまでには約200年を要する。その間、長期にわたり放射性廃棄物の流出や飛散を防ぐためには、一般の廃棄物処理とは全く異なる特別の管理体制をとらなければならない。

5 災害廃棄物の処理が遅れている原因は、国が被災地への支援を怠っていることにある

災害廃棄物の広域処理を求める野田首相は「日本人の国民性が再び試されている」(3月11日記者会見)としているが、これは復興に対する政府の責任を覆い隠し、地方自治体と国民に転嫁をする
ものである。災害廃棄物の処理が遅れている最大の原因は、国が被災地の自治体に対する支援を怠っていることにある。岩手県内で最大(約100万トン)の災害廃棄物を抱える陸前高田市は、廃棄物を市内で全部処理するために、震災の直後から焼却炉の早期新設を申請し、国に財政支援などを求めていた。しかし国はこれにまともに応じておらず、焼却炉の設置は未だにめどが立っていない。同市の戸羽市長は「(広域処理をする廃棄物は)宮城県で全体の2割、岩手県で1割。広域処理が進んだからと言って一気に解決されるという話ではない。国は被災地の現実をしっかり見て、あらゆる手立てを講じてほしい」(東京新聞3月20日)と語っている。災害廃棄物の処理は、国の責任において被災地での処理が迅速に進むように支援することを第一にすべきであり、広域処理は、それを補完する臨時的な措置とすべきである。

6 災害廃棄物は国の責任での処理を基本とし、広域処理は住民合意を前提とすること

 自治労連は、災害廃棄物の広域処理については、以下のように対応すべきと考える。
(1)放射性セシウム濃度が100ベクレル/㎏を超える災害廃棄物は、国と東京電力が共同で責任をもち、IAEA及び原子炉等規制法に基づく基準で処理をすることとし、全国への収集運搬、焼却、最終処分は行わないこと。
(2)放射性セシウム濃度が100ベクレル/㎏以下の災害廃棄物も、国の責任による処理を基本とすること。国は災害廃棄物の直轄処分場を被災地に建設するとともに、焼却炉の新設を求める被災自治体の要請に迅速かつ誠実に対応して支援をすること。
(3)被災地以外の自治体で広域処理を行う場合においても、放射性物質の汚染状況等について徹底した情報公開を行い、住民の合意を前提とすること。
(4)災害廃棄物の処理に従事する人の労働安全衛生など健康対策を万全なものにすること。

(以上)

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