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「表現の自由」と地方自治を侵害する「あいちトリエンナーレ2019」への補助金不交付に抗議する(談話)

2019年10月3日

書記長 前田博史

 8月1日に開幕した国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」の企画展「表現の不自由展・その後」が、脅迫や政治家の介入などによって、わずか3日で中止に追い込まれた。憲法21条で保障された「表現の自由」が侵害された極めて深刻な事態である。菅官房長官が8月2日の記者会見で、芸術祭が文化庁の助成事業になっていることに言及し、「補助金交付の決定にあたっては、事実関係を確認、精査して適切に対応したい」と、交付の差し止めを示唆したことは大問題である。

 企画展が中止になった以降、地元を中心に、テロや暴力に屈せず「表現の自由」を守る立場から、その再開を求める実行委員会会長の大村県知事への要請、緊急シンポジウム、集会などが行われた。愛知県が設置した検証委員会は、9月25日の中間報告で「条件が整い次第、すみやかに再開すべきだ」と提言。企画展の実行委員会が展示の再開を求めた仮処分の申し立てに対し、9月30日にトリエンナーレと企画展の実行委員会は、10月6日から8日のいずれかで再開することを前提に協議することで合意し、再開の見込みとなった。多様な表現の機会を保障することこそ国と自治体の責務であり、芸術・文化への公的助成にあたっても専門家の判断にゆだね、国や自治体は“金は出しても口は出さない”という原則が守られるべきである。

 文化庁は9月26日、同芸術祭への補助金約7800万円を全額不交付にすると発表した。不交付決定の理由として「展示会場の安全や事業の円滑な運営を脅かすような重大な事実を認識していたにもかかわらず、事実を申告することなく決定通知を受領し、文化庁からの問い合わせを受けるまで事実を申告しなかった」ことをあげているが、このような理由で採択後の全額不交付を決定した前例はない。不交付を決定した手続きについては、外部審査員の意見聴取を行わず文化庁内のみで審査をしていることや、補助金不交付決定とした審議の議事録がないことが明らかになっている。

 これに対して、補助金不交付の発表の同日夜から、文化・芸術分野における公的資金助成外部審査員従事者等有志・賛同者による「その撤回を求める署名」が広がり、開始半日で46,000人に達した(10月2日正午現在で95,500人超え)。9月30日夜には芸術家らが文化庁前で抗議集会(主催者発表200人)が開催されるなど抗議の声や補助金不交付撤回の世論が広がっている。

 今回の文化庁による一方的な補助金の不交付決定は、地方自治体が主催団体とともに自主的に企画した催しに対し、国の考えや意向に添わないものを排除しようとする意図を感じざるを得ない。

 自治労連は、憲法21条に保障された「表現の自由」を侵害し、地方自治の自主的な取り組みに違法・不当に介入する、文化庁の補助金の不交付に断固抗議するものである。

 そもそも憲法は21条で「表現の自由」を保障して検閲を禁止するとともに、99条では国務大臣、国会議員、公務員に憲法尊重擁護義務を課している。国と地方自治体は、国民の「表現の自由」を最大限保障するとともに、国民が自由にものを考え、議論する場を積極的に提供する役割がある。愛知県知事をはじめ企画に関わる県職員が、憲法に基づき、芸術家の表現の自由を保障して、同企画が開催できるように必要な支援を行うのは当然である。

 政府の見解に沿う表現活動にのみ補助金を支出することがまかり通れば、展示会などを企画する自治体は、企画内容について国の考え方を忖度したり、企画の自粛を図ることを誘発するなど、国民の「表現の自由」が侵害される事態を引き起こすことになる。

 文化庁をはじめ国が行うべきは、今回の補助金の不交付決定を直ちに撤回し、国民の「表現の自由」の権利を保障し、地方自治体の自主性を尊重することである。

 自治労連はこれまでも、憲法をいかし、住民のくらしと地方自治を守る立場で、さいたま市の公民館だよりへの九条俳句不掲載や、憲法集会への自治体の後援・会場提供拒否などの問題に対して、国民の言論、表現の自由を最大限保障するよう国と自治体に求める取り組みを進めてきた。自治労連は引き続き、国民の言論・表現の自由を保障すること、地方自治への侵害を許さないために、共同を広げてたたかうものである。

以上

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