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自治労連公営企業評議会・第35回全国公企研究交流集会を開催

 公営企業評議会(以下、公企評)は10月20日~21日、37名(14地方組織・18単組)が参加し、滋賀県・大津市で第35回全国公企研究交流集会を行いました。

 水道法改正案が継続審議になっている中、地域住民の福祉を増進することが目的である公営企業の存続・発展のために、具体的な政策をつくれるのは実際に現場で従事している労働者であり、将来のライフラインを考えられる職員の継続的採用、人材育成体制の実現などを話し合いました。

 また、住民へ水道法改正のねらいを知らせ、重要なライフラインである上下水道、電気、ガス、交通事業を共に考える住民を増やす取り組みについて学習・交流しました。

住民のための公営企業を

 植本議長は、冒頭のあいさつで自民党・安倍政権は「この国をまもる」といいながら戦争ができる国づくりを進めようとし、国民の生活基盤である水道事業を民間開放しようとしている。これでは国民の生活はまもれない。

 水道の民営化は海外で失敗しているのに日本では税金を投入して推進しようとしている。私たちは本質を見抜く力と市民に伝えて行く力が必要で、憲法をよりどころに、住民のための公営企業あるべき姿を考えていく公企評の役割は重要だと話しました。

つくられた公営企業の危機

 記念講演は作新学院大学の太田正・名誉教授が「岐路に立つ地方公営企業~自治体戦略2040構想に抗し住民とともに~」と題して行われ、水道事業を始めとした公営企業の現状分析に始まり、国が新たに進めようとしている2040構想について触れながら、水道広域化の問題点や公営企業の存在意義などを学びました。

 平成21年度から集中的に推進してきた公営企業の抜本改革の取組は、公営企業から急速に人材を失わせた。平成25年度末で一区切りしたはずの「取組」は、人口減少、施設老朽化等、経営環境が厳しさを増す中で、サービスの安定的な継続のためには平成26年度以降も不断の経営健全化等が必要として、「公営企業の経営に当たっての留意事項について」(平成26年8月29日付通知)を出して、PPP・PFIの導入を進めようとしている。

 この背景には、PPP・PFI推進アクションプログラム(平成30年改定版)があり、際限のない人員削減を行おうとしている。

 公営企業の危機は「つくられた危機」といえるが、広域化や民営化が解決策になるのか疑問であるとしながら、コンセッション方式の問題点として、民営で行うのに規制する事業法もなく、自治体と企業の契約という2者間に責任を委ね、国の責任を放棄しようとしている。また、国がコンセッション導入後に重要視しているモニタリング機能(管理能力)についても、これだけ職員を減らした現状では懐疑的にならざるを得ないと疑問視しました。

水道広域化は2040構想と共通した動き

 自治体戦略2040構想は、圏域プラットホームをつくり、AI・ITの活用で公務労働者を減らしていく構想だが、「水道法改正案も市町村運営が原則だった水道事業を、都道府県が主導して広域化を図る構想になっていて考え方が共通している。」と、広域化だけではない施策の必要性を話し、電気事業では自治体主導により、地産地消型の電気事業が増加傾向にあり、公営企業の新しい可能性を感じる。水道も地域特性を活かした水道システムを公営企業により存続・発展させていくことが重要だと締めくくりました。

人材を失えば「あきらめ」の心境になる

 近藤事務局長の基調報告では、水道法改正という局面をむかえて、広域化と官民連携が唯一の選択肢かのような政策、財政誘導を行っている国のねらいを住民に知らせ、いままで当り前だったライフラインについて住民と共に考えていくことの重要性を訴えました。

 浜松市ではコンセッション方式を「運営委託方式」という市民を騙すような言葉に変え、「いままでもほとんどの業務を委託で行っており、それを一括して委託する方式」だと説明していることに触れながら、人材を失えば、包括委託やコンセッション方式導入に対しても「あきらめ」の心境に陥っていくため、公営企業の再構築のための具体策を持つ必要がある。

人にこだわる要求を

 公公連携構想は、その具体策の一つだが、住民が公営で継続を望むことが前提となるし、実現には労働組合の組織を超えた連携・共闘が必要になってくる。民営化は「働きがいのある職場をつくりたい」という私たちの要求の基盤を失うことになるが、民営化を阻止するには住民の力が必要であり、大阪での共闘を学び住民へ積極的に知らせ共闘することを呼びかけました。

 また、住民のための公営企業の将来を考える職員を育てるには、一般市長部局との人事交流で人が育たない状況を変え、継続的採用と人材育成体制をつくらなければできない。各単組は「人にこだわる」要求をしていこうと提起しました。

公営企業に技術伝承は急務

 特別報告は、民営化計画が起きている和歌山水道労働組合、継続的採用と人材育成のとりくみと要求を続ける名古屋水道労働組合、今年の冬に起きた寒波による断水被害と夏の塩水の遡上による影響を受けた新潟水道労働組合、ガス事業のコンセッション導入計画が進む大津企業局労働組合から4つの報告が行われました。

〇和歌山では、内閣府が平成30年2月に募集した「上下水道一体の事業診断 による経営の効率化促進事業」調査の契約が決まり、その調査が始まった。11月には中間報告書が出てくるので住民に知らせていく運動を始める。

〇2012年を最後に採技能労務職の採用が困難となった名古屋では、組合が局に要求し行政職と技能労務職が事業継続に必要な技術・技能の伝承のために職域を超えて働く「協働」の取り組みを紹介し、「私の職場(浄水場)でも、行政職と技能労務職が混在して運転管理を行うとりくみが始まる。なかなか組合員にも理解が難しい方針だが、全国から期待される直営力をまもるために頑張る。

〇新潟では、今年の冬には寒波による漏水が多発し、緊急連絡管の敷設などの対応に追われ、夏には、塩水が遡上して大変な管理となった。経験者が少なくなる中で、想定を超える事態に対応するには困難になってきている。

〇大津市では、近畿地方で1・2の低料金で行ってきた公営ガス事業のコンセッション導入に向けて準備が進み、技術移転のため職員を退職派遣する計画のもと、派遣同意の意向調査も行われているが労働条件問題も課題だ。コンセッションが実施されても施設管理部門では派遣職員と運営会社の労働者が一緒に働くといういびつな状況になる。

ITの活用はコスト増も

 分科会は①営業・検針員、②市民との対話、公企評運動の継承、③公営バスの3つが開催されました。

〇名古屋検針員労組も参加した第1分科会では、「検針員も高齢化が進み仕事が成り立たなくなる」状況が報告され、AI・IT技術革新により労働力を少なくするというが、検針用のハンディターミナルも高価であり高度化すると逆にコストが増える例もある。通信でメータ管理すれば通信料がかかるし、セキュリティの心配もある。「やはりアナログ的に人がやっていくことも必要ではないか」という意見交換がされました。

〇第2分科会では、各単組・参加者からの状況について「なかなか住民に伝える活動ができない」という意見もありましたが、「住民と共同で行った学習会では水道事業への相互理解を深めることが重要だ」と、これからの運動について意見が交わされ、「広域化・民営化ありきではない水道の将来について次世代とともに目指していかなくては」との発言もありました。

インターバル時間の改善を

〇交通バス部門の第3分科会へは青森・八戸、横浜、北九州、長崎からの参加があり、劣悪な労働条件の元凶となっている改善基準(国土交通省)の変更を引き続き国に要請していくことと、とりわけ睡眠時間の確保もできないインターバル時間(終業から次の就労まで8時間空ければよい)の改善を強く求めることを確認し合いました。

 また、会計年度任用職員の問題など、新たな課題についても交通バス労組の情報交換を行いながら要求活動をすることなどが話し合われました。

公営企業経営に住民参加の仕組みを

 集会のまとめで近藤事務局長は、「水道法改正という局面をむかえて住民がライフラインについて考える機会が訪れている」民営化から再公営化を果たしたパリでは水道事業経営に住民が参加する仕組みをつくっているが、民営化の失敗は住民に情報公開が行われなかったという教訓からだ。

 日本ではまだ一つも民営化は行われていないが、民営化を阻止した後、公営企業として存続・発展させるためには水道事業を住民に理解してもらうことは重要で、住民参加の仕組みも今から考え、「国が示さない広域化・民営化以外の選択肢を示していく取り組みを始める時期だ」と、先駆的な公企評運動を訴えました。

 最後に、公営企業は、水道法が求める「低廉」を実現するよう努力し続けてきた。料金に利益や高額な報酬、株式配当を含む民営化は、水道法第一条の「低廉」に反する。このことを住民へ伝えながら、公営企業の本来の目的である福祉の増進を果たしていこうとまとめました。

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