「戸籍事務の民間委託は直ちに中止を!」

弁護団が足立区に意見書を提出

(東京自治労連)

 東京自治労連と東京自治労連弁護団は5月30日、足立区に対して戸籍事務の民間委託を中止するよう要請。東京自治労連弁護団が作成した「戸籍事務の民間委託の法的問題点」の意見書を提出し、①戸籍法の主旨、目的に沿った厳格な運用、②住民のプライバシー情報の保護、③偽装請負などの法的問題点を指摘し、民間委託は直ちに中止することを要請しました。

 要請には、東京自治労連から森田書記長、青柳書記、足立区職労より福田特別執行委員、東京自治労連弁護団から小部、笹山、船尾弁護士が出席。日本共産党足立区議会議員団から額賀(ぬかが)議員、秦野議員が出席しました。足立区からは、政策経営部長、区民部長、戸籍住民課長、経営戦略推進担当課長が応対しました。要請に対し足立区は、「(民間委託の)成果や問題点、課題について区民に明らかにしていく」と答えました。

 足立区の戸籍事務の民間委託に対して東京法務局は2月に現地調査を実施。「区職員が判断すべき業務を民間業者が行っている」として、区に対し4点にわたって改善を指摘しました(自治労連治労連速報第594号3月31日付参照)。指摘を受けた足立区は東京法務局に対し、窓口での受付から入力業務までを民間に委託し、入力した後の業務は区職員が担うとする報告をしました。報告を受けた東京法務局は、5月8日に再度足立区へ調査に入り、5月23日に「指摘事項について改善がされた」と区に回答をしています。しかし一方で、4月17日と5月22日に行われた参議院法務委員会で、法務省は「戸籍の事務は一件毎に市区町村職員の判断が必要である」「窓口で申請者が本人であるかどうかを確認する業務は、区職員の判断が必要とされる業務が存在することがある」と答弁しています。

 戸籍事務の民間委託の動きは、足立区に限らず東京都内の区役所にも広がろうとしています。東京自治労連は引き続き、戸籍事務の民間委託を許さず、自治体の窓口業務の公務公共サービスの拡充に向けて取り組みを進めることにしています。

 東京自治労連弁護団からの要請内容と区の対応の概要は次の通りです。

 

本人確認など判断が必要な部署に、区職員がいない

(小部弁護士)

 足立区の戸籍事務の民間委託問題は、全国的に注目されている。国も一部線を引いて民間委託を認めている(平成25年3月28日付法務省民事第一課長通知第317号)。戸籍の窓口では、年齢差が2つか3つしか違わないのに養子縁組を申し込んでくるなど、疑義のある事例が多い。このような届出に対しては、市区町村職員が直接応対して厳正に対処する必要がある。果たして、戸籍事務の民間委託がどこまでできるのか疑問がある。

 5月22日参議院法務委員会での谷垣法務大臣の発言は、「平成19年戸籍法改正の趣旨に基づいて、戸籍の謄抄本の交付請求の要件該当性の判断あるいは創設的届出における本人確認、これは厳正かつ適切に処理される必要がある」と述べている。すなわち戸籍の届出を受けて入力する行為には、市区町村職員の判断が伴うということだ。創設的届出を受け付ける第一線の窓口では、本人を証明する身分証明書が示されない場合、本人の挙動も観察し、五感を使って不正な申請でないかどうかを見極めて判断をしている。民間委託をしている足立区では、その業務に携わる部署に区職員がいない。市区町村職員が行うべき判断行為を民間業者の従業員が行っている。

 

「名ばかり管理職」では偽装請負になる。

(小部弁護士)

 民間業者の従業員が業務について疑義を感じた場合、区職員に問い合わせなければならないが、区職員に直接問い合わせれば偽装請負になる。民間業者の従業員が自らの管理職に相談し、相談を受けた管理職が区職員に相談しなければならず、2重の伝言ゲームになる。これで業務がスムーズに運ぶのか。二重の手間である。手間を省こうとすれば偽装請負になる。足立区では民間業者の「管理職」が緑色の腕章をして、他の従業員と区別をしているようだが、実際は管理職とは言えないのではないか。区は、委託をしている民間業者の従業員の人数や賃金、労働条件などを把握しているのか。他の従業員と賃金や労働条件に差がなければ管理職とはいえない。「名ばかり管理職」を配置するのは偽装請負だ。

 

(笹山弁護士)

 偽装請負で問題になった民間企業のキャノンでは、レンズの研磨作業で判断が必要となった場合、一つ一つについてキャノンの職員から判断を仰がないと業務が進まない状態にあった。職員にいちいち判断を仰がなければならない仕事を外部に委託すれば、偽装請負になることが避けられない。また、名ばかりの「管理職」を配置するだけでは偽装請負は免れない。本来、管理職は、一般の従業員と比べて出退勤の自由度は高いはず。緑色の腕章をつけている人の就業の実態を見ると、果たして管理職と言えるのか疑問がある。

 

個人情報の管理ができなくなる。

(小部弁護士)

 民間委託をすれば住民の個人情報の管理能力が低下する。どこの誰なのか区も把握できない民間業者の従業員に、住民の個人情報の管理をまかせることの理由がわからない。ある公立図書館での例だが、民間業者から派遣された司書が、自分の借りたい本がなかなか返却されないので、借りた人に対して、権限がないのに返却を督促する電話をかけて犯罪になったケースもある。

 

(笹山弁護士)

 個人情報の管理は重要な問題だ。公務員の場合、憲法を守る宣誓をし、自覚と責任を持って秘密を守るという義務が法律で厳しく課せられている。民間業者の従業員が同様の義務を果たせるのか。期限付きで不安定な雇用形態で働いている民間業者の人に、住民の個人情報の管理を委ねるのは不安がある。

 

(船尾弁護士)

 戸籍事務は、住民の基本的人権に関わる大事な事務を取り扱う仕事である。民間委託は行うべきではない。請け負った企業は、区から委託を受けていることをアピールして宣伝しているようだが、悪弊がはびこることになる。民間委託をして、区民の待ち時間が長くなったという話も聞く。窓口での待ち時間はどうなっているのか、民間委託をしてサービスが低下していないか、現状を明らかにしてほしい。

 

(政策経営部長)

 緑の腕章をつけているサブリーダーは、窓口で業務に携わる民間業者の従業員と区職員との間を取り次ぐ権限が与えられている。民間に委託して、待ち時間など住民サービスにどういう効果や影響がでているのかについては、6月17日に開催する区民委員会で明らかにしたい。

 

(戸籍住民課長)

 委託をした業務については、民間業者の現場管理者(リーダー、サブリーダー)が把握して行っている。管理職ではなく、現場管理者ないしは、責任者として扱っている。従業員の賃金については、区として把握はしていない。サブリーダーは11名いるが、足立区公契約条例の対象にはなっていない(足立区では公契約条例が2014年4月1日から施行)。民間委託と労働関係法令との関わりについては4月30日に東京労働局からの調査があったが、その結果はまだ区には届いていない。

 

(小部弁護士)

 果たしてリーダーに相応しい賃金なのか。マクドナルドは月15万円の賃金で「現場管理者」としていた。名ばかり管理職は問題である。リーダーが今後、区の公契約条例の対象となった場合は、どうするのか。

 

(政策経営部長)

 東京労働局の調査結果は、受託業者である富士ゼロックスからも調査をしてから報告がされることになっている。

(区民部長)

 実際の話、東京労働局との話し合いの結果がまだなので、何とも言えない。

 

(小部弁護士)

 問題があった時の最終責任は、区が担うことになる。労働者の賃金は、民間委託をしても責任は区にある。民間委託で法的に誤りがあれば、区として直ちに是正すべきである。足立区の戸籍事務の民間委託には、いままで指摘してきたように多くの法的問題点がある。民間委託は直ちに中止することを要請する。

以上

 

東京自治労連弁護団が足立区に提出した意見書は次の通りです。

 戸籍事務の民間委託の法的問題点

                  2014年5月28日  東京自治労連弁護団

 

 はじめに

 東京都足立区は、2014(平成26)年1月1日から、戸籍・住民票事務の民間委託を開始した。戸籍法・住民基本台帳法の上で市区町村が担当する事務について、広範に民間事業者に委託するものである。

 しかし今回の民間委託は、実態として戸籍法および住民基本台帳法上市区町村の事務とされている事務をその規定に反して民間事業者にゆだねる点、区職員による民間事業者の従事者に対する直接指揮が避けられず偽装請負となる点で、違法である。また、住民サービス向上や経費節減に逆行する危険性すらあり「効率的かつ効果的な窓口体制を確立」するとの足立区の論拠は破綻している。

 速やかな中止を求めるものである。

 1 経過

 足立区は、「戸籍住民課と中央本庁区民事務所の窓口統合と業務フローの見直しにより、効率的かつ効果的な窓口体制を確立した上で、外部資源を最大限活用する」ために、戸籍法・住民基本台帳法上の事務を、公権力の行使にあたる審査・決定を除き、委託した。

 2013年1月   公募開始

 2013年2月   提案書提出締切

 2013年3月   選定委員会による選定・契約

 2013年11月   レイアウト変更

  2013年11-12月  受託事業者事前研修

 2014年1月   窓口業務委託開始

 契約内容は次の通りである。

  契約期間 契約締結日から2015年9月30日まで

  契約金額 402,150,000円

  内訳(1)サービス設計プロジェクト業務 7,350,000円

     (2)ファシリティ設計業務     8,925,000円

     (3)窓口業務          385,875,000円

 2 委託した業務内容

 審査・決定など法令上職員が自ら責任を持って行うべき業務(公権力の行使にあたるもの)を除くすべてが業務委託の範囲とされている。

(1)戸籍届書受付・入力業務

(2)戸籍届書関連業務

(3)住民異動届等の受付・入力、及び関連業務

(4)印鑑登録等業務

(5)証明発行業務(郵送請求業務を除く)

(6)窓口案内業務(フロアマネージャー)

(7)特別永住者業務

(8)住居表示業務

(9)公金取り扱い業務

(10)その他の業務

 3 市区町村長の事務を民間事業者に委託する違法(問題点1)

(1)戸籍等の事務の重要性

 戸籍と住民基本台帳等の管理は、法令により市区長村長が所掌する。これは、さまざまな法令や権利関係を左右する、出生や死亡その他の親族関係を公証するというこれらの制度の重要性から、特定の利害関係を有する営利事業者ではなく、市区町村長が所掌することとしたものである。

(2)事務の一部の民間委託を可能にした法令・通達となお残る制限

 「競争の導入による公共サービスの改革に関する法律」(公共サービス改革法)34条は、次の業務を、官民競争入札又は民間競争入札の対象とすることができるとする。

①戸籍法上の証明書交付の請求の受付及び証明書の引渡し、②地方税法上の証明書の交付の請求の受付及び証明書の引渡し、③住民基本台帳法上の証明書の交付の請求の受付及び証明書の引渡し、④戸籍の附票の写しの交付の請求の受付及び引渡し、⑤印鑑登録証明書の請求の受付及び引渡し、である。平成20年1月17日付内閣府公共サービス改革推進室「市町村の出張所・連絡所等における窓口業務に関する官民競争入札又は民間競争入札等により民間事業者に委託することが可能な業務の範囲について」がこの意味を具体的に示していた。

 平成20年3月25日付法務省民事第1課補佐官(戸籍担当)事務連絡「『公共サービス改革基本方針』の一部(別表)の改定について」では、「民間事業者が市区町村長が行う戸籍事務の処理を補助することは、それが市区町村長の指揮監督下に行われるものであれは」戸籍法上可能であるとしつつ、公共サービス改革法34条は、「市区町村長の指揮監督下で戸籍事務を補助するとはいえない場合について、民間事業者が自ら戸籍事務の処理を行うことができる業務についての特例」を設けたものとされた。この帰結として、戸籍謄本等の交付の請求についての「受付」及び「引渡し」以外の事務について、「公共サービス改革法に基づく民間委託と同様の形態で民間委託することは認められません」とし、事務の委託に際しては「市区町村長の指揮監督下に行われる体制が確保されている必要があります」としていた。

 これに対し、平成25年3月28日付法務省民事第1課長通知は、「内閣府通知別紙に掲げられている事実行為又は補助行為は裁量の余地がないものであり、市区町村長が契約時に包括的に業務内容を示した上で業務を委託し、その実施に当たっては、内閣府通知で求められているように、市区町村職員が業務実施官署内に常駐し、不測の事態等に際しては当該職員自らが臨機適切な対応を行うことができる体制が確保されていれば、市区町村長が当該事務を管掌しているものと評価できることから、このような形で業務請負契約を締結しても、戸籍法上問題は生じない」とし、委託できる事務の拡大ができるかの表現を示した。

 具体的な区分としては、「ア 戸籍謄抄本等の交付請求に関する業務」では「(ア)事実上の行為又は補助的行為 交付請求書の受領及び本人確認、請求書への記載及び添付書面の確認、戸籍謄抄本等の作成及び引渡し、交付請求書の整理等。(イ)判断が必要となる業務 交付請求の要件該当性を確認した上での交付又は不交付の決定等」「イ 戸籍の届出に関する業務」では「(ア)事実上の行為又は補助的行為 届書の受領及び本人確認、届書への記載及び添付書面の確認、戸籍発収簿への記載、戸籍の記載、届書の整理等。(イ)判断が必要となる業務 届書の受理の要件を確認した上での受理又は不受理の決定、戸籍記載後の決裁(校合)処理等。」とされた。

 今回の足立区の措置は、この通知を受けてのものである。しかし、通知から明らかな通り、判断が必要となる行為は、あくまで市区町村職員によって行われなければならず、民間委託には引き続き制限が残されているものである。

(3)足立区の民間委託の問題点

 今回の足立区の民間委託には、上記の戸籍法等と通達、国会答弁に照らしても、次のような問題点があり、本年3月17日、東京法務局からも改善指導がなされた。しかし、本年3月31日付の足立区の改善報告によっても、以前、以下の問題点が残されている。

①       窓口で受付した届書を入力する業務は判断を伴う

 足立区の民間委託の業務手順では、窓口で受付した届書の入力は区職員の判断を介在せずに実行することとされている。しかし、入力するにあたっては法令上の要件をみたすかどうかについて判断を要する事項が多岐に及んでおり、これらの点を審査し区職員が判断する前に戸籍の届書を入力することは許されない。

②       届出の不備等について受付を拒み補正を求める業務は判断を伴う

 足立区の民間委託では、届書に不備等があった場合、民間事業者が窓口で届書の不備等を説明して申請者本人による取り下げ等を促す取り扱いがされている。しかし、このような取り扱いは、実質的にみて、民間事業者が不受理の決定という公権力の行使(行政処分)を行っているに等しいものであり、許されない。

③       民間事業者による届書の補正は許されない

 足立区の民間委託では、届書の不備の補正について、民間事業者により届書の補正がされ、形式だけ区が補正したことを公印処理することとなっている。しかし、このような取り扱いは許されない。

 ④小括

 このように、受付の後、法令上の要件を確認し、入力し、記載や証明書を作成する、という一連の事務処理工程の中には、随所に法令上の要件に適合するかどうかについての判断が介在しており、このような判断を要する事項を民間事業者にゆだねている点で、違法である。

(4)住民サービスの不効率化

 もし、区において戸籍法にも労働関係法令にも抵触しない方法で民間委託をしようとすれば、住民が窓口に来てから、民間事業者の職員は、不備の指摘や説明等の多くの問題について、まず民間事業者の少数の管理者に報告し、民間事業者の少数の管理者が区職員と協議し、区職員が事態を掌握した上で判断し、民間事業者の少数の管理者を通して窓口の民間事業者職員に伝達する、という過程をふまなければならない。法令上このような手続きをふむ必要がある以上、民間委託によって、待ち時間短縮等の住民サービスの向上はとうてい望めない。

 特に入力業務については、2014年4月17日、仁比聡平参議院議員(日本共産党)の参議院法務委員会での質問に対して、法務省民事局長深山卓也(政府参考人)は、以下の通り答弁した。

 「実際のシステムでは、いま委員ご指摘の通り、そういう自動審査機能が働いてポップアップが立ちます。しかし、それを仮に請負した業者がその作業をやっているとなると、そこ、判断権限や判断をすることはできませんので、全てイエスという形でどんどん先へ進んでいく、文字の入力だけしていって請け負った業務としては入力は終わりましたということで、権限ある区の職員にそのデータを引き継ぐ。区の職員は、文字データだけは入力されているけれども、もちろんそのポップアップシステムはもう一度全部見直すことになっています。そういうシステムになっていますので、全部自分でチェックをして、これでいいのか、イエスということで全部押し切って仮の形でデータ入力は終わっているけれども、そのデータ入力が法律に照らして正しいのかどうかは、それはもちろん区の職員が一件一件全部判断をして処理をすると、こういうことでございます。」

 これでは完全に二度手間であり、むしろ待ち時間は増大し、住民サービスは悪化することが明らかである。

(5)経費増大の可能性

 法令や先例の研さんを摘んだ区職員が直接担当する場合と対比すれば、知識経験の不足する民間事業者の従業員については、担当者の人数を多くするよりない。民間事業者それ自体の利益の確保も考慮に入れれば、民間委託によって経費節減の効果があるという根拠もない。むしろ、経費が増大する可能性すらある。

 さらに、受託企業のホームページに、足立区職員が写真付肩書付で掲載され、一民間事業者のPRに足立区の公務員が協力することとなっている。地方自治体と民間事業者との間のこのような関係は、適切ではない。

 4 「偽装請負」が避けられない(問題点2)

(1)「偽装請負」の規制

 職業安定法施行規則第4条によれば、労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣法に基づく者は除く)は、たとえその契約の形式が請負契約であっても、次の要件をすべてみたさなければならず、みたさないときは、いわゆる「偽装請負」として違法となる。

①作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負う

②作業に従事する労働者を、指揮監督する

③作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負う

④自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであって、単に肉体的な労働力を提供するものでない

(2)「偽装請負」は避けられない

 平成25年3月28日付法務省民事第1課長通知それ自体、「市区町村職員が業務実施官署内に常駐し、不測の事態等に際しては当該職員自らが臨機適切な対応を行うこと」を前提としている。このように、民間事業者の事務処理にあたり、職員が臨機適切に指示をするということは、とりもなおさず、区職員が随時民間事業者の職員に直接の指揮命令をしなければならないことを意味する。

 また、機械、設備、器材、作業に必要な材料、資材も、区が用意したものであって民間事業者が自ら提供したものではない。

 したがって、足立区の民間委託は、「偽装請負」として違法となることが不可避である。

(3)民間事業者の多数の「管理職」は「名ばかり管理職」

 足立区においては、民間事業者の職員に対する区職員からの直接の指示が避けられないことから、民間事業者側で、多くの職員に管理職としての肩書を付与し、管理職に対する指示である形式をつくりだすことで、違法性を免れようとしていると伝えられる。

 しかし、労働関係法令上一般に、「管理職」とは、労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的立場にある者をいうとされており、名称にとらわれず、実態に即して判断すべきであるとされている(昭和22年9月13日発基17号、昭和63年3月14日基発150号、昭和52年2月28日基発104の2、105号)。そして具体的な判断要素は、①職務の内容、権限、責任、②出退社等についての自由度、③その地位にふさわしい処遇、などとされる(昭和63年3月14日基発150号)。裁判例も、一般従業員と同じ賃金体系時間管理下におかれている場合(橘屋事件・大阪地判昭和40年5月22日)、勤務時間の裁量権のない者(ネットブレーン事件・東京地判平成18年12月8日)、ファストフード直営店店長(日本マクドナルド事件・東京地判平成20年1月28日)等について、管理監督者ではないと判断している。

 これらの裁判例や通達に照らせば、「管理職」としての肩書を付与された民間事業者の職員の多くは、実態として「管理職」ではなく、これらの者に対する区職員からの直接の指示は、委託者から受託事業者労働者への直接の指示に該当するものである。

 したがって、民間事業者が多くの職員に管理職としての肩書を付与したとしても、「偽装請負」となることは避けられない。

 5 個人情報の保護は低下する(問題点3)

 戸籍等の取り扱う事項は、出生から死亡に至るまでの親族関係その他に関する情報であり、個人のプライバシーに関する個人情報である。こうした情報に民間事業者が接することは、住民の個人情報の保護やプライバシー権の保障を脅かすものである。

 行政と民間事業者との間で、個人情報を保護する旨の協定が結ばれていたとしても、公務員について懲戒処分や刑事罰が設けられていることと対比すれば、個人情報の漏えい等の問題が生じる危険性は、著しく高い。

 もし、ひとたび個人情報漏えいの問題が生じれば、行政としても住民に対する損害賠償のリスクを負うこととなる。たとえば宇治市個人情報流出事件(大阪高裁平成13年12月25日判決)では、1件について1万円(弁護士費用5000円)の損害賠償が認められている。

 6 ただちに中止を

  以上の通り、足立区の戸籍事務の民間委託は、戸籍法等の法令が市区町村職員の権限としている事項に民間事業者の職員が関与する点で違法であり、住民サービス向上や経費節減に逆行する危険性すらあり「効率的かつ効果的な窓口体制を確立」するとの足立区の論拠は破綻している。さらに、労働関係法令によればその実態は「偽装請負」とならざるを得ず、個人情報の保護の低下の危険があるものである。

 ただちに中止をすることを求めるものである。

                             以 上