いい旅ニッポン見聞録2017年7月号 Vol.524

愛媛県内子町 内子座

舞台と観客の距離が近い芝居小屋

木蝋が育んだ江戸・明治の風情ある町並み

▲内子座。1916年創建、1985年劇場として再出発
木造二階建入母屋造り。重要文化財

JR内子駅前から本町通をしばらく歩き左に折れると内子座に出会います。ここは1916年に町の有志により創建されました。運営主体は株式会社内子座から内山商工会を経て、1982年に内子町に移っています。老朽化のため取り壊しになるところを、町民の熱意により、愛媛県指定文化の里「木蝋(もくろう)(※)と白壁の町並み」の一環として修理復元、町民の浄財と篤志家の寄付を得て1985年10月劇場として再出発を果たしました。花道、すっぽん、回り舞台、迫(せり)、奈落、上手に義太夫席、下手2階にお囃子のいる黒御簾、枡席(後ろ半分はベンチ型の椅子席)、桟敷席などが揃った本格的な芝居小屋です。それとこれは無粋な警察官が検視したという検番台も。定員650人、大向う席から間近に舞台がみえ、役者と観客の距離が近い。大都会の歌舞伎座のような天井から覗くようなことはありません。公演のない日はガイド付きで見学ができます。

芝居と縁(えにし)から遠ざかって各地をめぐった「宇野重吉一座」もここ内子座で1986年に公演しました。木下順二原作の『おんにょろ盛衰記』と『三年寝太郎』です。そのもようは日色ともゑさんが『宇野重吉一座 最後の旅日記』に綴っています。晩年に至って宇野重吉が求めた芝居の原点をさぐり深める旅に最適の劇場です。

こんな舞台で芝居見物ができる内子町や近隣の人をうらやましく思います。夏恒例の文楽は今年8月19、20日に第21回公演となります。演目は六代目豊竹呂太夫らの「芦屋同満大内鑑(あしやどうまんおおうちかがみ)」です。文楽のほか落語や地元高校生らの公演、ユニークなのはこども狂言の稽古・公演に使われていることです。

内子座を出て、本町通にもどり北東に歩くと、江戸後半から明治期の商家(薬屋)そのままを利用した「商いと暮らし博物館」があります。ここでは内子町の歴史がわかります。

本町通を進み左折すると八日市護国の町並みに入ります。この町並みは重要伝統的建造物群保存地区に指定されています。木蝋資料館、上芳我邸(かみはがてい)(重要文化財)に入りました。上芳我邸は木蝋生産で財をなした本芳我家の筆頭分家で、住宅や木蝋生産施設、敷地を往時のまま一体として遺しているのは全国でここだけだそうです。広い邸内に木蝋生産工程の展示棟もあり、豪商のくらしとそれを支えた木蝋産業について見学できます。通りに面した棟は木蝋・櫨工芸品などの土産物店になっています。

町内の老舗旅館に泊まって内子座での公演を愉しめたらいいですね。

▲「内子座大向席から舞台と客席が近い」

▲八日市護国の町並。江戸、明治期の町屋、商家が約600メートル続きます
※木蝋:ハゼノキの実を粉にし、蒸して搾った生蝋。ろうそく、髪付け、石けん、化粧品、クレヨンなどに用いた。

見聞メモ
【アクセス】
JR松山駅―JR内子駅 特急約25分
【問い合わせ】
内子座と商いと暮らし博物館:内子町内子分庁 町並・地域振興課電話(0893)44―2118