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第95録 治安維持法反対を貫いた〝山宣(やません)〟の個人博物館

いい旅ニッポン見聞録2025年8月号 Vol.621

治安維持法反対を貫いた〝山宣(やません)〟の個人博物館

京都府宇治市・山本宣治資料館

▲山宣の似顔絵 見学した高校生の壁新聞から

Vita brevis, Scientia Longa
生命(いのち)は短く 科学は永い(山宣の座右銘)

治安維持法100年 今に響く山宣の生涯

生物学者の山本宣治(愛称・山宣)は、性教育・母性保護運動から労働農民運動、反戦平和の追求へと活動分野を広げ、第1回普通選挙で代議士となりました。その後、侵略戦争反対と治安維持法反対を貫いたために、1929年3月5日、右翼・七生義団の黒田保久二に暗殺されました。命日には墓前祭が催され、事務局は宇治市職労や宇治山宣会など7団体が担ってきました。今年はその第96回で、全国から200人余が参加しました。

宇治山宣会事務局長の小松正明さんの案内で、貴重な史料や遺品が保管・展示されている山本宣治資料館を訪ねました。資料館は山宣が二代目当主だった割烹旅館「花やしき浮舟園」旧館の一隅にあり、蔵を改造した小さな個人博物館です。旧館は、島村抱月と松井須磨子、有島武郎、竹久夢二らが逗留しています。

まず目についたのは、見学した高校生グループが作った大きな壁新聞です。山宣の似顔絵が印象的でした。学生たちが各地から見学に訪れており、韓国の医療系学生が来訪したこともあります。保存状態のいい、第1回普通選挙での山宣の選挙ポスターもありました。机に置かれた「学び舎」中学歴史教科書『ともに学ぶ人間の歴史』に目を通しました。生徒に思考を促すような内容です。現在、山宣が載っている教科書はこれだけです。灘中高卒の政治家の猛烈な圧力に抗して、灘中学校が継続使用しているという興味深い挿話を聞きました。

書斎の壁に「戦争撲滅ノ為奮闘セヨ!!」との掲示があり、1929年2月末、遊説先で求めに応じて「唯生唯戦(ゆいしょうゆいせん)」と揮毫した大きな額に貼られた書があります。ひたすら生き、ひたすらにたたかう。額にはラテン語の座右銘も―。真正面から暴政に向かう山宣の覚悟が偲ばれます。

橘の小島の色は
変はらじを この浮舟ぞ
行方知られぬ浮舟の歌

資料館を出て、平等院や平家物語の宇治川先陣争いの史跡を歩き、泊りは新館「花やしき浮舟園」。お着きの宇治茶を喫し、中州(橘の小島)を眺めながら、しばし宇治十帖・浮舟の世界に心を遊ばせました。

▲山本宣治資料館入口

▲割烹旅館「花やしき浮舟園」旧館 映画『武器なき斗い』(原作・西口克己『山宣』)のロケ地のひとつ