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第83録 歴史に翻弄される温泉と人が暮らす世界遺産

いい旅ニッポン見聞録2023年7月号 Vol.596

海から山まで美しい日本の原風景

歴史に翻弄される温泉と人が暮らす世界遺産

富山県南砺(なんと)市・大牧温泉と五箇山(ごかやま)

▲船からのみ見られる旅館の全景

船でしか行けない秘湯

富山県西部を流れる庄川は岐阜の飛騨高地から富山を抜け日本海にそそぎます。その庄川にある小牧ダムの湖畔に、数々の旅番組やサスペンスドラマの舞台になった秘湯・大牧温泉があります。

大牧温泉へ行くには船以外の交通手段はありません。庄川峡遊覧船案内所で往復切符を買います。ちなみに片道切符はありません。ダム湖を上流に向けて、BGMの『こきりこ節』を聞きながら30分行くと、湖畔にせり出した宿が見えてきて旅情がいっきに盛り上がります。

大牧温泉の開湯は1183年。平家の武将・藤原賀房が源氏から逃れさまようなか、河原に湧く温泉を発見し傷を治したそうです。ダムができる前は河原の露天風呂が村人の湯治場でしたが1930年、ダムの完成で集落とともに湖底に沈みました。その温泉を高台に引き上げ建物を新築し旅館となりました。

宿は改装され、近代的です。廊下には、野際陽子、森口瑤子、浅野ゆう子らのサインや写真がずらり。塩化物泉と硫酸塩泉の2つの源泉があり、趣向を凝らした大浴場や渓谷を眺めながら露天風呂が楽しめます。

世界遺産・五箇山

翌朝、さらに上流の五箇山へ。五箇山は庄川沿いの谷間に40の集落が点在し、そのうちの相倉(あいのくら)と菅沼の合掌造り集落が、岐阜の白川郷とともに1995年、世界文化遺産に登録されました。現在も人が住み、子どもたちが駆け回っています。

豪雪地帯で、昔は加賀藩の奨励で、1階では火薬の原料となる〝塩硝〟や和紙作り、上の階では養蚕が行われていたそうです。

小学校で習ったこきりこ節「♪こ~きりこ~の~竹は七寸五分じゃ、長いは袖のかなかいじゃ」がまさかこんな遠くの山奥発祥で日本最古の民謡だったとは…。

名産は五箇山豆腐。縄で縛っても崩れず、「寝るときに枕にした」「つまづいて生爪をはがした」と笑い話にされるほど硬く、噛み応えのある豆腐です。

▲世界遺産・相倉集落

▲硬めの五箇山豆腐を冷奴で