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第82録 富士山を褒めてはいけない!? 絶景パワースポット

いい旅ニッポン見聞録2023年5月号 Vol.594

神話が息づく西伊豆の岩峰

富士山を褒めてはいけない!? 絶景パワースポット

静岡県賀茂郡松崎町・烏帽子山

▲山頂からの眺望。晴れていれば富士山、南アルプス、御前崎などが見えます

富士山は古くから日本人の信仰の対象として崇められてきました。その優美な風貌は『万葉集』山部赤人(やまべのあかひと)の歌や葛飾北斎『富嶽三十六景』をはじめ、現代にいたるまで多くの芸術作品のモチーフになっています。そんな富士山を「褒めてはいけない」場所が静岡県にあるのをご存知ですか。

烏帽子山にまつわる神々の物語

伊豆半島西海岸に位置する松崎町。山と海に囲まれた温泉街・雲見(くもみ)地区にある烏帽子山(えぼしやま)は標高162メートルの岩山です。山頂には磐長姫命(いわながひめのみこと)を祭神とする雲見浅間神社があります。全国の浅間神社のほとんどが木花咲耶姫命(このはなさくやひめのみこと)(富士山)を祀る一方、雲見浅間神社では姉の磐長姫命を祀っています。

記紀神話で姉妹は天照大神の孫の瓊瓊杵尊(ににぎのみこと)に嫁ぎますが、妹より容姿の劣る磐長姫命は追い返されてしまいます。姉妹は仲たがいし、磐長姫命は烏帽子山に隠れ住むようになりました。以来、烏帽子山で富士山を褒めると、磐長姫命がねたんで海に振り落とされるという伝説が生まれました。

険しい参道の先に待つ絶景スポット

西伊豆東海バス「雲見温泉」から徒歩約4分で参道入口に着きます。山頂の本殿までは、約450段の石段と険しい山道を踏破する必要があります。中之宮に続く石段は非常に急勾配なうえ、中之宮から先は道らしい道もなくなり、岩や木の根を乗り越えながらすすむことになります。参拝の際はしっかりとした靴を履いていきましょう。

この険しい山道をすすむこと約10分。切り立った崖と石階段の先に本殿と展望台が見えてきます。展望台はコンクリートと鉄パイプで作られた狭い足場で、崖下を見下ろせば荒波が白い波頭をあげています。ここから振り落とされればまず命はありません。その分眺めは抜群で、駿河湾を一望できます。

残念ながら山頂に着くころには雲がかかってしまいましたが、晴れていれば富士山のほか南アルプスまで遠望できるそうです。実は烏帽子山と富士山の姿が両方見えることは珍しく、磐長姫命の嫉妬で烏帽子山に雲がかかり、富士山から見えなくなったという伝説もあります。

地元では、仲たがいをしてしまった姉妹に1日だけでも和解してもらおうと、2013年から2月23日(富士山の日)にあわせて「仲直り」の神事が行われています。

今も伝わる姉妹の物語に思いをはせながら、山頂からの絶景を眺めてみませんか。ただし、決して富士山を褒めてはいけませんよ…。

▲拝殿付近から見る富士山。駿河湾越しにうっすらと姿が見えました

▲烏帽子山。山の形が烏帽子に似ていることから名づけられました

▲雲見浅間神社の本殿。磐長姫命が祀られています

▲本殿の内部。地元住民もほとんど見たことがないという御神体を見せていただきました