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〔42〕阿智村あげての演劇 歴史とどう向き合うか

かがやきDAYS2018年新年号 Vol.530

阿智村あげての演劇 歴史とどう向き合うか

長野・阿智村職 大石 真紀子さん

▲現在は、住民の活動を支援する協働活動の推進課で日々、住民と向き合う大石さん

「過去から学び、未来を考えることが必要」だと、長野県阿智村で、『村民劇プロジェクト』が立ち上がりました。『満蒙開拓』をテーマにした村民劇『たんぽぽの花』が作られ、劇は『たんぽぽの花』『三つの責任』『枝豆とハンコ』の3部です。

1936年の戦時中、日本では国策として「満州農業移民100万戸移住計画」を策定。この施策によって終戦まで日本全国から約27万人、長野からは3万3000人、阿智村からは1000人を超える住民が当時の自治体などの働きかけによって満州へと渡った歴史があります。

「村で演劇をしよう。テーマは『満蒙開拓』で」と2016年に「阿智村地域おこし協力隊」で声が上がりました。当時、公民館職員であった大石真紀子さん自身も村民劇を実現したいと思い、「人権教育推進事業」に位置付け、公民館がかかわるようになったそうです。

『たんぽぽの花』を執筆した劇作家・くるみざわしんさんが「やるなら脚本も村民から」と提案し、脚本指導も行いました。『枝豆とハンコ』の脚本は大石さんが、『三つの責任』は同じ阿智村職の井原喜志美さんが執筆しました。

大石さんに課せられた脚本のお題決めは「満蒙開拓と夏と役場。当時の村報など行政の関係資料を見たら、大豆畑の写真があり、『枝豆だ!』、行政といえば『ハンコだ!』」とひらめき、そこから「エダマメ星へ移民する国策が降ってきた未来の役場との設定を思いつき、実際に当時の村報を読んだことで、登場人物は広報係にしよう」と決めたといいます。

「戦時中、国策になぜ、当時の役場は付き従ったのか。繰り返さないためには何が必要か。脚本で意識したことです。1934年から5年間分の村報を見通すと、『村のために農業生産を』がしだいに国家の『戦争で勝つために生産量を上げる』に変わっていく経過が読み取れます。当時の職員の懸命な仕事が、結果的に満蒙開拓という悲劇を引き起こすことになりました」

「私たち自治体の仕事は、日常的には上司の判断があり、村での方針は村長や村議会が決めます。しかし、どの場面でも背景には住民がいます。住民のために職員の行動が、判断が、常に問われていると感じています」と、脚本や仕事への思いを語る大石さんに「住民のための仕事を突き詰めたい」という思いの力強さを感じます。

▲『枝豆とハンコ』のワンシーン。国の政策に疑いを抱く職員と村長とのやりとり

▲2017年12月10日、長野市での公演を終えた阿智村のみなさん。次回は2018年1月14日、長野県岡谷市で公演