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第15録 歴史とともに暮らす「奈良町」の人々

いい旅ニッポン見聞録2017年4月号 Vol.521

奈良県・奈良市「奈良町」

歴史とともに暮らす「奈良町」の人々

古いものと新しいものが息づくまち

▲奈良市中心部にある奈良町界隈の街並み(写真提供:奈良市観光協会)

歴史情緒あふれる「奈良町」を訪ねて

雨がしとしとと瓦屋根につたう「奈良町」を訪れました。都会の喧騒のなかであびる雨は気持ち的にもうんざりですが、歴史情緒あふれる街並みの中では、不思議と居心地がいいものです。

その土地にある建造物や歴史的な資料を見るのも楽しみの一つですが、そこに住む人たちと話しながら散策すれば、旅はもっと楽しくなります。

地元の特産品も旅の楽しみです。そうめん発祥の地と言われる桜井市の三輪地方で作られた「三輪そうめん」は特有のつるっと、もっちりとした食感です。

また「吉野本葛」も有名です。その特徴は葛根を「吉野晒(よしのさらし)」という吉野地方独自の「水晒し製法」で精製し、その葛根から採取したでんぷんを100%使用したものが「吉野本葛」となります。

「甘味処 佐久良」では「吉野本葛」を使った甘味を出してくれます。冬季しか食べることができない葛しるこは、葛を入れて煮込んだとろとろのおしるこに、できたてのぷるぷるもちもちの本葛もちがはいっています。冷たい葛きりとはまた違った味わいです。

店主は現在で6代目。明治からつづく呉服店に併設する形で甘味処を2002年に開店。

着物の反物で作られた前掛けをつけた女将さんは、「雨の時の奈良はどうですか? 雨の方が静かで、ゆっくりできますよ」

女将さんは、ひと昔前と現在の奈良町について、「昔は、葛切なら葛切一本、呉服なら呉服一本で商売をしていました。最近は私らと同じような商売をしているところは、代がかわってか、なんというんですか、ハイカラな商売をするようになりましたね」

続けて「観光地は発展しています。私らからすると、ずいぶん雰囲気が昔と比べ変わってしまいましたね」と少し寂しげでしたが、「娘が東京にいるんですが、店を継ぎに、今度奈良に帰ってくるんです」と笑顔に。

古き良き町家のこる地域のぬくもりを感じて

奈良市中心部から南にある一帯を地域の人々は親しみを込めて「奈良町」と呼ぶことが多いそうです。

この一帯は、平城遷都から始まり、江戸時代末期から明治時代にかけての町家が残っています。

奈良町の町家の特徴は、間口が狭く、奥行きが深い作りにあります。また印象的な木の温かみを感じさせる格子戸が目にとどまります。

古きものと新しきものが息づく地域「奈良町」。さまざまな思いをもち、そこに住む人々がいます。旅をしているからこそ、少し大胆な気持ちになって、地元のひとに話しかけてみて、歴史を聞いてみるのはいかがでしょうか。

▲あたたかみがある木造りの格子戸

▲「甘味処 佐久良」の冬季限定のぷるぷるもっちりの本葛もち入りのおしるこ