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【シリーズ130】落語はみんなを元気にします

My Way My Life2011年5月号 Vol.450

東京・文京区職労 篠 聡一郎(しの そういちろう)さん
落語はみんなを元気にします

 『寿限無(じゅげむ)』『まんじゅうこわい』『時そば』など、伝統芸能としてなじみ深い「落語」。文京区には区職員の落研(おちけん)=文京区役所落語研究会があり、子どもの頃から落語好きだった篠さんは、入職と同時に研究会に入会しました。「父が落語好きで、しょっちゅうラジオから落語が流れているような家に育ちましたから、私も友だちとコントをやったり、ウケをねらう子どもでした。授業中、先生に茶々を入れて立たされたりね」
 篠さんの高座名は「山柳山柳(やまやなぎさんりゅう)」。好きな落語家・川柳川柳(かわやなぎせんりゅう)師匠から真似ました。落語の練習は師匠から弟子へ口伝えするプロとは違い、寄席などの高座やテレビ・ビデオ・本で覚えたりなどさまざまだと言います。「基本の物語とオチは決まっていますから、自己流のギャグを仕込むこともあります。寄席でいろいろな人の『いいとこどり』をしちゃうのも楽しい」。そんな篠さんの落語を、文京区職労の益子茂委員長は「メリハリがあって上手い。恥ずかしがらず、常に堂々としているところがいい」と太鼓判を押します。
 折しも取材した日は文京区役所内で「笑福寄席」という昼休み寄席が催されていました。職員たちが続々と区役所内の和室に現れ、お弁当を食べながら篠さんのテンポよい語りに笑い声を響かせます。「仕事の合間の気分転換になってくれたらうれしいし、私自身も励みになっています」。福祉事務所の生活保護課で働いている篠さんは、厳しい職場だからこそ、息抜きを大事にしていると言います。「どんな仕事・部署であっても職員が笑い合える雰囲気であって欲しいですね」と強調します。
 さらに、篠さんが力を入れてとりくんでいるのは「落語ボランティア」。年間60回ほど、主に老人ホームへ落語の出前をしています。出演料・交通費は受け取りません。
 2005年12月、新潟県中越地震(2004年10月発生)の被災地となった新潟県川口町(現長岡市東川口)に行った時、「地震以来、初めて笑った」と言ってくれた町の住民の言葉が篠さんの心に残っています。東日本大震災にも心を痛め「落語ができるような状況になったら被災地にうかがいたい」と話しました。「『お客さんが私の落語を聞いてくれている』と実感できる時が一番うれしい。体が許す限りボランティアは続けたい。呼んでいただけるならどこへでも行きますよ」と、聞く人たちはもちろん、自分自身も楽しみながら、芸にますます磨きをかけています。

▲落語『かつぎ屋』を演じる篠さん。「『木村屋の徳兵衛さん』だから略して『キトク』」「なんだい縁起が悪いねえ。そういうときゃ『キムトク』でいいんだよ!」

▲和服を着替え、仕事に戻ります。右にあるのは高座で出される「山柳」のめくり