〔116〕奥州の誇り鹿踊(ししおどり)を舞い継ぐ
2025年12月号 Vol.625
奥州の誇り鹿踊(ししおどり)を舞い継ぐ
岩手・奥州市職労 千田(ちだ) 崇(たかし)さん
▲本番前、袴姿の千田さん
岩手県南部に伝わる郷土芸能「鹿踊」は、鹿を模した装束を身にまとい、太鼓を打ち鳴らしながら舞う勇壮な踊りです。五穀豊穣、先祖供養、悪霊退散などの祈りを込め、祭礼の場で披露されてきました。
「究極の芸能」に魅せられて
千田さんは、地元・奥州市の「行山流都鳥鹿踊(ぎょうざんりゅうとどりししおどり)」保存会に所属し、23年間にわたり継承と普及に力を注いでいます。
「地元のお祭りで太鼓を叩いたときに出会った鹿踊の師匠に声をかけてもらったのがきっかけです。重い装束を背負って踊るのは大変そうだなと思っていましたが、見た目がかっこよくて始めました」と振り返ります。
実際に踊ると、その奥深さに魅了された千田さん。岩手には神楽や剣舞、さんさ踊りなど数多くの郷土芸能がありますが、「鹿踊は踊りながら太鼓を叩き、唄も歌う。まさに〝究極の芸能〟だと思います」と語ります。
鹿の頭を模した頭飾りなどの装束は重さ約15キロ。踊り手の体力と集中力が試されます。演舞が始まると太鼓の音と掛け声が響き渡り、観客の心を一気に引き込む迫力があります。
鹿踊は8人で構成され、千田さんは中心の「中立(なかだち、仲立)」を務めています。ある程度振り付けのアレンジが許されるポジションで、責任とやりがいを感じています。
保存会では、地域の祭りやイベントへの出演を通じて、鹿踊の魅力を広く発信しています。千田さんも仕事の合間を縫って練習し、若手の育成にも力を注いでいます。「郷土芸能は地域の誇り。これからも多くの人に良さを知ってもらい、伝統が途切れないよう続けていきたいです」と話します。
踊りの輪がつなぐ世代と地域
最近は、職場の仲間が観客として応援に来てくれることも増え、地域と職場のつながりを実感することも。「職場での会話のきっかけにもなるし、鹿踊を通じて人との縁が広がっていくのが嬉しいですね」と笑います。
練習は毎週日曜日に地元の地区センターで行われ、若手からベテランまでが一緒になって汗を流します。技術だけでなく、礼儀や協調性も自然と身につき、世代を超えた交流の場になっています。千田さんの活動は、地域に誇りと活気をもたらす力強い原動力となっています。
▲鮮やかな装束をつけての演舞
▲世界遺産 平泉・毛越寺での演舞