悠湯 旅情2013年6月号 Vol.475

小林多喜二が逗留した宿「福元館」 神奈川県厚木市・七沢温泉

『オルグ』執筆の離れをひそかに守り続けた館主の熱い思い

『蟹工船』で知られるプロレタリア作家・小林多喜二が逗留したのが、神奈川県厚木市の七沢温泉です。1933年2月、多喜二が特高警察により虐殺される前々年の1931年、豊多摩刑務所から出獄した直後の3月中旬から4月までの約1カ月間、七沢温泉の宿「福元館」の離れに逗留して小説『オルグ』を執筆しました。
このことは長い間公表されず、2000年に初めて明らかにされました。戦前の暗黒政治のもと、弾圧により多喜二にかかわる物がほとんど残されていないなか、多喜二愛用の机や手火鉢、丹前などが当時のまま残され、大変貴重です。
治安維持法違反、不敬罪で投獄された多喜二を、危険を冒してかくまう勇気をもった福元館の先々代の館主と、戦後もひそかに「大事な人」である多喜二の離れを当時のままに守り抜いた代々の館主の熱い思い、行動を知り、自由と平和を願う草の根の活動がここ七沢の地に息づいていたと知ることは、憲法改悪の危険な動きが強まっている今だからこそ、大事なことではないでしょうか。
福元館を訪れると、今年86歳の大女将は、「背中の傷が痛々しかった」「いつも風呂でブラームスの『折ればよかった』を歌っているので覚えてしまった」など、姉から聞いた「多喜二さん」のエピソードを語り、多喜二の大好物のぼたもちをふるまってくれます。
七沢温泉は丹沢大山国定公園の東部に位置し、寛永年間に上杉定正の名馬・月影の傷を癒したと言われ、二日酔いや胃腸に良いとされる強アルカリ性の美肌の湯で、お肌がつるつるになります。
近くには森林セラピー基地(全国に53カ所)に認定されている七沢森林公園があります。里山を丸ごと公園として整備、約65ヘクタールの園内は起伏に富んでおり、森林セラピーロードが整備されているので、森林の持つ神秘の癒しが体験できます。
東丹沢の里山には飯山温泉などの温泉が点在し、登山道やハイキングコースも整備されているので、四季折々の自然を五感で感じながら楽しむことができます。またジャンボクリスマスツリーで有名な宮ケ瀬ダムの周辺には、バーベキューのできるピクニック広場や、大噴水、展望台、水とエネルギー館などの施設が充実しています。

▲離れには、多喜二の使用した丹前、火鉢、机などが当時のまま保存されています

▲七沢森林公園入口にある森のかけはし

温泉メモ

【七沢温泉福元館】

所在地/
〒243−0121
神奈川県厚木市七沢2758
問い合わせ/
046−248−0335
交通/
小田急線本厚木駅からバスで30分、
東名高速厚木ICから20分

【七沢森林公園】

所在地/
神奈川県厚木市七沢901−1
問い合わせ/
046−247−9870
交通/
小田急線本厚木駅からバス、東名高速厚木IC