水道事業の変質をねらう水道法改正の動き

 厚生労働省は、安倍政権が掲げる上下水道事業の民間開放推進のため、コンセッション方式導入と水道事業広域化を後押しする水道法改正案にむけた専門委員会を異例のスピードで開催し、2016年11月に「国民生活を支える水道事業の基盤強化等に向けて講ずべき施策について」(以下「報告書」)をまとめました。

 その報告書作成過程では、水道法は憲法に保障された生存権を具現化するものであり、その立場からの発言もあるものの、「水道事業法にしてはどうか」と水道事業の目的を変質させる議論も行われています。

 今回の水道法改正への議論では、2001年「水道事業の包括委託を可能」とする法改正から拡大した委託業務により失われた直営技術力や、過大な水需要予測による水源開発費への反省がないまま、民営にすれば解決できるかのような幻想を抱かせるものと公企評は捉えています。

 水道料金の算定にあたって「総括原価方式」を採用し、役員報酬や株式配当を水道料金に含むことを可能にする法改正は、水道法の目的を変質し、水を「商品」として扱うものであり、到底容認できません。

※委員会の議事録および報告書は厚生労働省HPに公開されています。

http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/shingi-kousei.html?tid=335087

 

「国民生活を支える水道事業の基盤強化等に向けて講ずべき施策について」(2016年11月)の分析と見解

2017年1月30日

自治労連公営企業評議会

 

※報告書のうち3項以降は(案)となっているため、1項・2項について分析・見解を発表します。

※文中、四角で囲まれた部分が「報告書」文書です。

(1)報告書の項目、段落別の分析と見解

1 水道事業をめぐる現状と課題

○人口減少社会が到来し、今から約40年後、日本の人口は8600万人程度となると推計されている。それに伴い、水需要も約4割減少すると推計されている。給水量の減少は直接料  金収入の減少につながり、特に小規模な水道事業者(注:簡易水道事業者を含む。以下同じ。)において、経営状況の急激な悪化が懸念される。

・水需要減少の判断は「遅すぎた英断」とはいえ、新水道ビジョンに続き明確に記載していることは評価できます。まずは、今以て過大な水需要計画を掲げている水系の計画を改め、そ 

 の上で、経営を圧迫する水源開発費用については国が責任をもって解決する手段を講じるべきです。

・小規模水道事業は、そもそも福祉水道の成り立ちがあり、国・自治体の補助なしでは経営が成立たず、同列に論じるには無理があります。

 

○また、高度経済成長期に整備された水道は、その施設の老朽化が進行し、これまでの施設投資額の約6割を占める水道管路の経年化率は年々上昇しているにもかかわらず、管路の 更新が進んでいない。仮に、現状の更新率のまま推移するとした場合、全ての管路の更新に約130年かかる計算となっている。

・「耐震管の耐用年数は100年」とメーカーが公表する中、計画的な起債により、次の50年、100年のスパンで水道事業を考える時期です。また、都市部での管更新工事は阻害要因も多いのが現状です。したがって、優先順位を考慮した計画的更新が進められるよう起債条件緩和や国の財政補助は当然ですが、事業体の事業規模(執行体制)に見合った工事計画が必要であり、財政問題だけでは解決できません。

 

○耐震化についても、配水池及び浄水施設の耐震化率、基幹管路の耐震適合率は、依然として低い。水道施設の更新・耐震化が適切に実施されていなければ、安全な水を安定的に供給  できないだけでなく、先の東日本大震災や平成28年熊本地震における状況に照らしてみても、大規模災害時等において、断水が長期化し、市民生活に甚大な影響を及ぼすおそれがある。

・震災への対策は、設備の老朽化対策や耐震化だけでなく、他都市からの応援体制や、災害時における国の財政援助も近年の震災の教訓から大きな課題であることを捉えるべきです。

 

○こうしたハード面の課題に加え、水道事業者の組織人員削減、団塊世代の退職により、水道事業に携わる職員数は約30年前に比べ、3割程度減少している。さらに、職員の高齢化 も進み、技術の維持、継承が課題となっている。特に小規模の水道事業者ほど職員数が少なく、地震・豪雨等の災害や事故発生時等に自力で対処することが極めて厳しい状況も見受けられる。

・職員削減、退職不補充は国の施策により行われたものであり異論は多くあります。一言でいえば「すでに限界を超している」状況です。市町村合併につづく水道事業の広域化は、さらなる技術低下を招くおそれがあり、例えば地方水道事業では、職員が点在する水道施設を十分に理解していない状況もある中で、広域化により、さらに状況は悪くなる懸念がぬぐえません。

・また、他部門との人事交流や、早すぎる異動年数により技術の伝承が困難となっているばかりか、腰をすえた将来計画が望めない状況となっていることも深く分析するべきです。

 

○また、約5割の上水道事業者において、給水原価が供給単価を上回っている一方、水道料金の値上げを行った水道事業者は、平成22年~平成26年の年平均で全体の約4%にとどまっている。十分な更新費用等を水道料金原価に見積もっていない場合が多いと考えられ、このままでは、老朽化・耐震化費用の増大と水需要の減少とが相まって、将来、急激な水道料金の引上げを招くおそれがある。

・比較的給水原価の高い用水供給の比率と、安い自己水源比率別に掘り下げた調査が必要であり、後に述べてある広域化により料金統一を図るとき、給水原価=供給単価の理論では、不必要に料金が上昇する事業体が生じる懸念があります。

・値上げについて、地方議会へ十分な理解を得るための国としての役割は重要であり、国は福祉的性格を持つ水道への財政補助を更新規模に見合った水準へ引き上げる責任があります。

・水道料金の設定も「首長」による「人気取り的」な料金値下げ事例もあり、適性であるか否かは事業者責任だけではありません。

 

2.今後の水道行政において講ずべき施策の基本的な方向性

○水道の計画的な整備を中心とする時代から、人口減少社会や頻発する災害に対応できるよう施設の維持管理や修繕、計画的な更新を行うことにより、将来にわたり持続可能な水道とすることが求められる時代へと大きく変化した。

・もっともな表現ですが、先に述べたようにダム開発等を優先とした基幹整備への反省がないままです。

 

〇このような時代において、今や国民生活や産業活動に欠かせないライフラインとなった水道事業について、今後もその持続性を確保するため、国及び地方公共団体はそれぞれの立場から水道事業の基盤強化(適切な管理による健全な施設の保持、財政基盤の確保、及び経営ノウハウや技術力等を有する人材の育成・確保等)を図ることが不可欠である。

・人材育成・確保の具体的施策は、「課題に対する具体的な対応」の項の中で官民連携が「唯一の解決策」という結論を導き出すのが、この報告書の流れとなっていることから、この段落の内容は「直営」による人材育成・確保についての本気度が問われます。

 

○単独で事業の基盤強化を図ることが困難な中小規模の水道事業者及び水道用水供給事業者においては、地域の実情を踏まえつつ、職員確保や経営面でのスケールメリットの創出につながり、災害対応能力の確保にも有効な広域連携を図ることが必要である。

・そもそも「不採算」事業であり、単独での基盤強化が不可能な簡易水道事業と水道事業の統合を進めれば、受け皿となった水道事業体の経営はさらに悪化します。

・今までも「統合」は人員を減らすことが大きな目標となっている状況で、今後、「統合」により職員の補充や確保ができるのかを整理すべきです。

 

○また、民間企業の技術、経営ノウハウ及び人材の活用を図る官民連携も、水道施設等の維持・管理、運営等の向上を図り、水道事業の基盤を強化していく上で有効な方策の一つである。

・「有効な方策の一つ」とするなら、直営拡充を含めた他の方策を示すべきです。また、公民連携の「民」は、ダンピング競争により疲弊した状況となっており、企業の適正な成長と、 公共事業の質を維持するための公契約制度などの具体的施策がなければ官民連携は成り立ちません。

 

○水道事業全体の底上げにつながる水道にかかわる人材育成についての一層の推進も求められている。

・全体の底上げの中心的役割を果たしてきた政令指定都市などの中核都市の現状分析が欠落しています。職員の減少や高齢化、技術力の低下は中核都市も同様です。災害時支援はもちろん、技術援助においても中核都市の役割は増していると捉えるならば、人員増も含めた体制強化への国による具体的支援策が必要です。

 

(2)総合的分析と見解

・水道法と公営企業法の目的である公共の福祉の観点が歪められる、民間企業参入を前提とした水道法改正には反対の意思を表明します。また、同時に進めようとしている一律的ともいえる水道事業広域化は、住民による自治・ガバナンスを遠ざけるばかりか、先に施行された水循環基本法の趣旨に反する、流域を越えた導水や配水を行い、貴重な自己水源を放棄する懸念もあり、地域住民の水への関心を遠ざけるものと捉えています。

・公企評は、水道は憲法に保障された生存権をまもるライフラインそのものであり、現在の水道事業の現状をひろく地域住民に知らせ、いくつかの選択肢を示しながら、住民とともに将来の水道のありかたを議論できる土壌をつくることを国、都道府県、地方自治体に求めていきます。また、高水準にある日本の水処理技術、送配水技術を大切にし、この技術・技能を伝承していくため、公正な立場に立った公民連携と公公連携へ立ち返ることを求めます。

・わたしたちの水道政策の柱は、身近な自己水源を大切にし、「無理なく水を得て、人々の営みに用い、再び浄化して自然に返す」その過程と思考が住民の理解を得られる水循環システムであり、今後の更新時期を省エネルギー、環境にやさしい、新時代の水道システムを構築していく機会にすべきと捉えています。したがって、水道法の趣旨を深く理解するとともに、地方公営企業としての役割を発揮し、地域住民のための将来の水道事業運営のできる人材育成・確保にむけた具体的施策を国に求めていきます。また、地方においては、水政策をこれからのまちづくりの中心に据え、「大都市の理論」を地方にあてはめず水道事業計画を立てていく重要な機会にすべきであると捉えています。

 

以上