「小田原市職員による生活保護利用者を威嚇するようなジャンパー着用問題」について(談話)

2017年2月1日
書記長 中川 悟

 神奈川県小田原市の福祉健康部生活支援課職員が、「保護なめんな」「我々は正義だ」「不当な利益を得るために我々をだまそうとするならば、あえて言おう。クズである」など、生活保護利用者を威嚇するような言葉を英文でプリントしたジャンパーを自費で作成し、それを家庭訪問時にも着用していたと報じられた。報道によれば、2007年に生活保護の支給を打ち切られた利用者が職員を負傷させる事件があり、職員の連帯感を高めるために作られたということだが、報道を受けた市は不適切な表現と認め、着用を禁止させるとともに、市民に不快な思いをさせたと謝罪。併せて、同市のホームページの生活保護についての記載が、基本的な制度を説明せずに、不正受給への対応の記載のみであり、すぐさま基本的な制度説明を付け足された事とともに、今回の問題発覚を契機に「現場が疲弊している」として標準数に人員を増やすことを表明したことが報道された。

 もちろん、生活保護制度の悪用は許されるものではなく、厳正な対処が求められる。しかし、「生活保護に関する実態調査」(2014年総務省実施)によれば、2011年の「不正受給」総額は全体支出額の0.5%に満たないものである。その中には、高校生がアルバイトにより得た収入を申告していなかったというものなどは「不正」ではなく、制度の不理解や福祉事務所の案内不足によるものも含まれている。
 また、ジャンパーの着用を黙認してきた、市の生活保護制度に対する姿勢に問題があるのではという報道もある一方で、「表面化していない自治体職員の心の声を表したものであり、そもそも不正受給をする利用者が悪いのだ」と、生活保護バッシングをあおる報道も見受けられる。
 おそろいのジャンパーを着て訪問に出る行為自体、日々守秘義務を掲げプライバシーに最大限配慮しながら、細やかに人権を重視した対応を行わなければならない生活保護行政からしても問題がある。ましてや、プリントされた文言内容は、あたかも生活保護制度を利用すること自体が悪い事ととらえられても仕方がないことや、本人の功罪を問わず貧困の前での絶対的平等・最低生活の保障をうたう生活保護行政の根本を揺るがすものであり、看過することはできない。
 同時に、こうした事態にまで、行き着いてしまった背景にある、国からかけられる生活保護費抑制の圧力や標準数に満たない人員体制など、小田原市のみならず全国の生活保護担当職場が厳しい実態にあることも指摘しておかなければならない。
 併せて、社会保障を「自己責任」化に傾注する政治がすすめられるとともに、生活保護バッシングを煽るようなマスコミ報道が行われるなかで、生活保護職場だけでなく社会保障を担当する福祉関係職場と地域住民の間に「対立」と「分断」が作りだされ、自治体職員がいつのまにか、住民生活を守り支えるのではなく、「不正」を取り締まることや、保険料滞納問題だけを重視するだけの仕事になってしまわないか危惧するものである。

 自治労連は、生存権保障の最前線に立つ生活保護職場に関わって、2009年に全国実態調査を実施し、その危機的な状況を明らかにし、厚生労働省に改善を求める要請を行ってきた。
また、2014年に示した生活保護職場の政策提案「『人間らしく生きること』を保障できる職場づくりのための生活保護政策提言(案)」(ホームページ参照)において、①住民の立場に立って福祉の仕事を遂行できるように、生保ケースワーカー等の専門性を確保し、必要かつ十分な生保ケースワーカー等を配置し、民主的・組織的の職場運営を図ること、②生活保護制度を、生活に困窮している住民にとって利用しやすいものに改善し、広く住民の中に、生存権保障としての生活保護制度をいきわたらせること、③誰もが健康で文化的な生活を営む最低保障である生活保護制度において、これ以上、最低生活基準を引き下げるのではなく、充実させること、という3点をベースに制度と施策、運用、実施体制のありかたを提案し、これを実現すべきための自治労連の役割と決意を掲げ運動を進めてきた。これは、生活保護の問題が生活保護職場のみならず、自治体労働者と住民の関係、自治体労働者ならではの役割を明らかにするものと確信したからである。
 
 まさに、労働組合の真価の発揮が求められる。惜しまざるを得ないのは、小田原市には労働組合がなく、そのことが職場の仲間の苦しさや思いを共有し、建設的な議論をすすめる場を持ちえなかったことである。
 今、格差の拡大と貧困の深化が日本全体に広がり、本来生活保護を利用すべき収入水準であるにも関わらず、生活保護を利用しないで生活している世帯に、最低限度の生活を保障することが国の責任である。しかし、政府・厚労省は、生活保護基準をさらに引き下げ、利用者を抑制することで、ナショナルミニマムの水準の切り下げをはかっている。
 自治労連は、あらためて「地域住民の繁栄なくして、自治体労働者の幸福はない」とのスローガンのもと、自治体労働者が誇りと働きがいを持ち、住民のための仕事をすすめられるよう、「こんな地域と職場を作りたい運動」を職場の仲間と地域住民との共感を広げすすめていくものである。
                                                                                 以上