メニュー

「子ども子育て新システム」は欠陥制度 導入許さず、国と自治体が責任をもって保育の充実を

2011年8月17日

「子ども子育て新システム」は欠陥制度 導入許さず、国と自治体が責任をもって保育の充実を


日本自治体労働組合総連合
書記長 猿橋 均

-ワーキングチーム中間とりまとめ、少子化社会対策会議決定を受けて-

1 子ども子育て新システム検討会議の基本制度ワーキングチームは、7月27日、制度の全体像について、中間的なとりまとめをおこなった。これを受けた、少子化社会対策会議(会長:総理大臣)は、7月29日付けで今後の進め方を決定した。決定内容は、懸念を表明する地方自治体関係者らに配慮し、回りくどい表現をしているが、①成案を得るまでに実施主体である地方自治体関係者等と「丁寧に」協議し理解を得る、②年内に成案をえて、遅くとも2012年3月までに、「税制抜本改革とともに」新システム関連法案を提出する、③法案が成立しても本格実施は税制抜本改正(消費税の大幅引上げ)による財源確保以降とするとしている。

2 そもそも民主党政権は、今年1月に「こども園関連3法案」を現在開会中の通常国会に提出するとしていた。しかし会期を70日間も延長しながら、法案提出の大前提となる新システムの重要な部分を未だに明らかにできないでいる。制度設計が大幅に遅れている最大の理由は、保育・子育てを自己責任にかえ、市場化する「新システム」に反対する運動の広がりである。「よりよい保育を!実行委員会」で取り組んでいる国会請願署名は第一次330万筆、第二次100万筆をこえ、昨年3月以降、200近い自治体が意見書を採択している。「新システム」では「保育所ふやして待機児解消を」「詰め込みでなく行き届いた保育を」「中山間地域でも安心して子育てを」という国民の要求を実現できず、逆に困難にすることへの理解が、運動とともに広がっている。だからこそ、ワーキングチームを取り仕切る官僚や「学識経験者」らは、国民の批判を誤魔化すために四苦八苦している。

3 基本制度ワーキングチームが中間的にとりまとめた「新システム」の特徴は、市町村の保育実施責任を廃止し、保護者と施設・事業者との直接契約にかえ、時間刻みの保育サービスにし、民間企業が自由に参入できる市場化にある。しかし直接契約になれば、貧困家庭の子ども、虐待等のおそれのある子ども、社会的養護が必要な子どもに必要な保育を等しく確保できない問題が発生する。この批判に対して、「公的契約」で市町村が関与するから心配ないと説明してきた。ところが関与の内容は「定員が空いているのに利用申し込みを拒否してはならない」という程度にすぎない。これでは社会的弱者の保育の利用が保障されない。また市場ルールにかえると「保育料のダンピング競争が起こり、保育水準を低下させないか」「まともな保育を求めると、高額の保育料を要求されないか」という問題が発生する。そこで「保育の価格」を市場システムに任せるのではなく、質の確保・向上が図られる水準の「公定価格」を国が決定するから心配ないと説明してきた。ところが「公定価格」に加えて、施設、サービスによる上乗せ徴収を可能としたので、利用料は「青天井」である。他方、「公定価格」は、家庭的保育(保育ママ)、居宅訪問型保育(ベビーシッター)などには適用されないので、これらの保育の質の低下は「底無し」である。要するに「公定価格」とは「こども園給付」の算定基準にすぎない。

4 新システムの実施主体は、市町村とされながら、責任をもって実施するための権限(裁量権)と自主財源は市町村から取り上げられる。歳入である「子ども・子育て包括交付金」のあり方、国が定める基準と地域の実情に応じるための市町村の裁量との関係、指定制度の導入にかかる国の基準と都道府県や市町村の裁量の範囲、市町村の独自事業の取り扱いなどはすべて「今後検討」として先送りされた。

5 しかも、当初言っていた基本理念や基本方向が総崩れしている。「政府の推進体制・財源の一元化」は実現の見通しがまったくない。「子ども手当」は与野党の密室政治で廃止を合意した。「幼稚園・保育所の一体化」は幼稚園制度の存続、個人給付(総合施設等)と市町村事業(家庭的保育事業等)との混在でいっそう複雑になった。「ワーク・ライフ・バランスの実現」は、一度も検討しなかったうえ、「どのように位置づけるか検討を進める」とまで後退させた。学童保育も「こども園給付」の対象から外され、現行どおり、市町村事業の一つに列記されたにすぎない。その一方で、子どもにとってもっとも大切な、憲法と児童福祉法に基づく公的保育制度だけは破壊される。

6 「新システム」は、子どもにとって「百害あって一利なし」の制度である。政府が「新システム」を「社会保障と税の一体改革」、すなわち消費税率を当面10%に引き上げるプログラムのトップに位置づけたこと、来年1月から始まる通常国会に、税制抜本改正案とともに法案提出することを決めたことによって、「新システム」の根本的問題を何ら解決せず、法律だけ先に通して制度の枠組みを決める恐れが出てきた。「年内に成案を得る」「1月から始まる通常国会に法案を提出する」とされたため、今秋から年末にかけた「新システム」に反対するたたかいが、きわめて重要になった。職場と地域から「子ども子育て新システム」の導入を許さず、国と自治体が責任をもって保育を充実させる運動を、ひとまわり、ふたまわり大きく広げようではないか。

 

(以上)

関連記事

関連記事