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職場のメンタルヘルス対策のために(討議案)

128_f269_127_1226382889- はじめに  いま自治体職場のメンタルヘルス問題は、民間企業以上に深刻です。

 特にこの3年間で状況は一層厳しいものとなっています。

 人員の削減、公務員バッシング、職場での個別化、そして何よりも自公政権のもとで進められてきた構造改革のもとで、自治体の現場が「悪政の執行者」としての性格が強まり、住民との矛盾が集中していることがメンタルヘルス問題を一層深刻にしています。

 自治労連は、労安・職業病対策委員会で話し合い、深刻化するメンタルヘルスの問題に対するとりくみを強化するため、「メンタルヘルス対策討議素案」を作成し、08年6月に東西でメンタルヘルス研修会を開催してその実践と討論をよびかけました。

 東西研修会のアンケートでは、「メンタルヘルスが全国的な緊急課題と感じた」「単組で、系統的なとりくみ方針を作りたい」「できるだけ組合員に伝達講習して役立てていきたい」「予防の観点が本当に大切だと思った」「安全衛生委員会に生かしていきたい」など、こうした意見をもとに、さらに労安・職業病対策委員会で話し合い、今後、地方組織・単組で一層メンタルヘルス対策を強化するため、6月に提起した「討議素案」を練り直して「職場のメンタルヘルス対策のために(討議案)」を作成しました。

 第30回大会方針でも、職場のメンタルヘルス対策の強化を打ち出しています。

 この討議案とモデル要求書を積極的に活用され、メンタルヘルス対策をすすめていただくとともに、各地方組織・単組からのご意見・ご要望を、自治労連本部にお寄せいただきますようお願いするものです。

1 すべての地方組織・単組でメンタルヘルス対策を

1.自治体職場でもメンタルヘルス不調者が急増しています。

 (財)社会経済生産性本部が2007年4月に、自治体のメンタルヘルスの実態調査を全国の自治体1874組織を対象に実施しました(有効回答数727、回収率38.8%)。この中でも、半数近くの自治体でこの3年間に「心の病」が増加していると答え、職員数が1000名を超える規模の自治体では一般企業を上回っています。

 年齢別にみると30代(34.4%)が最も多く、次いで40代(30.8%)となっています。また、9割以上の自治体で一人当たりの仕事量がかなり増え、7割の自治体において個人で仕事をする機会が増えたとしています。

 さらに、ほとんどの自治体で「住民の行政を見る目が厳しくなっている」と感じており、5割の自治体で「職場のコミュニケーションの機会が減り、職場の助け合いが少なくなっている」と回答しています。

 職場での助け合いが減った自治体やコミュニケーションが減少している自治体ほど、メンタルヘルス不調者が増加傾向にあります。

 また、ある自治体がおこなった「うつ傾向について」のアンケート(5000人を無作為抽出、回収率83.1%)では、回答者の42%が「なんらかのうつ傾向が疑われる」という結果が見られました。

 年代別では30代から40代の割合が高く、職種別では、一般行政事務、医務職員の割合が高めでした。

 相談者は、2002年度344人であったが、2006年度では513人と約1.5倍に増加しています。

 京都の舞鶴市職労が行った「職場ギスギスアンケート」では、人間関係で神経をすり減らしている実態や職場の忙しさ、コミュニケーションの欠如、チームワークのなさを嘆く記述もかなり記入されていたなど、職場の不満やストレスが増大している状況が浮き彫りにされています。

 こうした状況は何処の自治体職場でもあてはまる状況と言えます。

2.なぜか・・・その要因は  メンタルヘルス不調が、民間はもとより自治体職場でも増大している要因として、以下の点が挙げられます。  「構造改革」路線による労働法制の諸改悪、利潤第一主義にたつ大企業の横暴が、「心の健康を守る地域と職場づくり」を破壊しています。  自治体職場が自公政権のすすめる悪政を執行する場となり、合わせての市場化・民営化による住民サービスの切捨てがすすみ、「住民に喜ばれる良い仕事がしたい」という願いに反する状態となっていることです。

 自治体では、「三位一体」改革による自治体財政の悪化や集中改革プランなどにより、総人件費削減や人員削減が進み長時間・過密労働が常態化していることです。  また、「分権改革」による事務・事業の市町村委譲などで業務量が増大、「めまぐるしく変わる法制度」など、仕事の内容や環境が急速に変化していることです。  IT化による増大な情報処理のなかで、仕事の個別化と個人責任制の強化がすすみ、仕事スタイルの変化や孤立化(集団性の希薄化)などによるストレスが増大したことです。

 さらに「能力・成果主義」の人事評価や賃金制度の導入が進められ、自治体職場になじまない無理な競争をあおる労務管理が問題をますます深刻にしています。

 このようなストレスの増大が、ハラスメント問題をも引き起こす一因にもなっています。 3.自治労連は、どうとりくむのか  メンタルヘルス対策をすすめる上で、言うまでもなく当局の責任と役割は重要です。同時に、この対策強化のとりくみは「誰もが安心して働き続けられる職場と労働条件を築く」という労働組合の役割そのものであり、労働組合としての対応が決定的に重要です。  その際、この問題が基本的には労働に伴う疾患であることをふまえることが大切です。個人の性格や気質に解消することは問題の解決にはなりません。

 私たちは、とりくみの基本として、(1)メンタルヘルス不調者を出さないこと(2)メンタルヘルス不調者の権利を守ること(3)職場の人員確保などの勤務体制を確保すること、を重視し、すべての労働者の人権、就労権を守る立場で対応します。 こうした点をふまえ、自治労連として、次のとりくみを強化するものです。

 すべての地方組織・単組で、学習会の開催、アンケート調査等の実施など、メンタルヘルス対策をすすめる。  当局に要求書を提出し、事業主の責任でメンタルヘルス対策の体制確立、「心の健康づくり計画や、職場復帰支援の手引き」の作成、長時間・過密労働の解消、実態把握や対応方針、職員研修などのとりくみの推進・強化を求める。  労働組合が積極的に働きかけ、(安全)衛生委員会のとりくみを活性化させ、メンタルヘルスの現状把握と対策などのとりくみの促進をはかる。

 自治労連本部・地方組織・ブロックで学習や交流の場をもうけ、全国的な運動の推進をはかる。

2 具体的なとりくみ

1.労働組合としての活動体制を確立しましょう  労働組合としてメンタルヘルス対策を含む「労働安全衛生活動」を組合運動の柱のひとつとして位置づけ、三役および執行委員に担当役員を配置し、執行委員会としてとりくみを強化しましょう。

 労働組合として、職員からの相談体制を強化し、当局の相談窓口との連携を確立しましょう。 2.労働安全衛生活動を活性化しましょう (1)労働組合が積極的に関与し、(安全)衛生委員会の活性化をはかりましょう。

 労働安全衛生法は事業者に、労働者が半数参加する安全衛生委員会の設置を義務付けています。委員会の開催は毎月1回以上(必要があればをその都度)で、調査審議の内容はすべて労働者に知らせ、月1回の安全パトロール(安全管理者)、月1回の産業医巡視、週1回の職場巡視を取り組む必要があります。自治労連が作成した、「公務職場のいのちと健康を守るー労働安全衛生活動の手引き」(06・6)や「非正規労働者の労働安全衛生活動の手引き」(08・4)を参考にしながら、活性化しましょう。 (2)メンタルヘルスの課題でも、(安全)衛生委員会を積極的に活用しましょう。

 改正労働安全衛生法(66条の8.9項)及び労働安全衛生規則(52条)で「月間残業時間が100時間を越えるもので、心身に疲労の蓄積が認められ、労働者から申し出のあった場合、事業主は産業医等の面接指導を当該労働者に受けさせ、必要な措置を講じなければならない」(2008年には従業員50人以下の事業場でも面接指導が義務付けられました)とされた点を委員会の中で具体化しましょう。

  (安全)衛生委員会を定例開催させるとともに、その中で事務局に  長期休業者の発生状況、  メンタルヘルス不調者が発生した職場の残業実態などの状況把握、  メンタルヘルス不調者の担当体制の明確化と状況報告、  長期休業者の職場復帰にむけた対応状況の把握、  などの報告を求め、今後の対応策の検討を行いましょう。長時間労働の実態や人員過不足・配置なども議論していきましょう。

3.労働組合としての学習・啓発活動を強めましょう  職場での階層ごとの教育を含め、学習活動を軸にしたすべての労働者への系統的な啓発活動はきわめて重要です。学習の機会を当局に保障させましょう。

 「メンタルヘルスとは」、「病気の特性や職場の対応のあり方」、「労働組合のメンタルヘルスの取り組み」など、正規・非正規を問わず、すべての労働者を対象に学習を実施し、基礎知識を身につけましょう。

 メンタルヘルス対策について、「労働安全衛生法」「労働基準法」「判例」「通達」など、勝ち取ってきた権利について学習しましよう。  労働安全衛生ニュース等を発行し、メンタルヘルス問題について啓発しましょう。

4.調査・点検活動に取り組みましょう

 メンタルヘルス不調者の発生状況やその対応の状況、職場の労働・環境など、アンケートや実態調査、職場懇談会などを行い、実態を正確に把握しましょう。

 労働実態や職場環境が条例、規則、作業実態に照らして違反はないか、労基法、労働安全衛生法、判例などを下回っていないか等を点検し、改善を求めましょう。

5.メンタルヘルス対策の要求書を提出し、当局へ安全配慮義務、健康保持責任を求めていきましょう  自治労連の「モデル要求書」(P15)や人事院や厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針(新指針)」(P23)などを参考にして要求書を作成し、「心の健康管理に関する計画」づくりや「職場復帰プログラム」など策定を当局に求めましょう。

 なお、すでに策定されているところは、労働安全衛生活動や職場懇談会、アンケートなどを通じて検証し、より実効あるものに改善させましょう。

6.職場の人員体制を確立し、長時間・過密労働をなくし、働きやすい職場づくりをすすめましょう

(1)人員体制について  過重労働をなくすため、仕事量に見合う適正な人員配置を要求しましょう。

(2)労働時間短縮について  労働者が健康で働き続けるために、8時間労働制をまもり、さらに労働時間短縮をすすめていくことが必要です。

 そのために労働組合として、36協定の締結やサービス残業根絶、さらに有給休暇の完全取得に向けたとりくみを強化しましょう。 その際、  「労働時間の適正な把握のために、使用者が講ずべき措置に関する基準について」(01年4月) http://www.mhlw.go.jp/houdou/0104/h0406-6.html  「所定外労働削減要綱の改訂について」(01年10月) http://www-bm.mhlw.go.jp/houdou/0110/h1024-3.html  「過重労働による健康障害防止のための総合対策」(06年3月) http://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/roudou/an-eihou/dl/ka060317008a.pdf  を活用しましょう。

(2) 月40時間を超える時間外労働を行う労働者の把握と健康チェックの実施(月をまたぐ連続して40時間以上の時間外労働も同様に把握)を当局に求めましょう。

(3)働きやすい、働きがいのある職場へ  「働きやすい、働きがいのある職場」を作っていくために、例えば、『メンタルヘルス不調防止「10か条」の提起』などを各職場で議論し作り上げましょう。

【参考例】  「一日8時間は仕事のために、あとの8時間は休息のために、残りの8時間は家族のために」  一人ぼっちの労働者をなくそう  「朝ごはん食べましたか」「お元気ですか」などの声かけとあいさつ  メンタルヘルス不調者の「居場所づくり」を考えよう  週一度はノー残業デーの設定を  有給の完全取得は心の健康づくりへの近道  職場のハラスメントにレッドカード  メンタルヘルスはトップの宣言から  メンタルヘルスは職場の民主主義のバロメーター  また、「産業人のメンタルヘルス白書」(2008)でも、メンタルヘルスの向上には良い組織をつくる視点が不可欠で、具体的には「方針理解」のためのとりくみや「承認」(声かけ、あいさつ)、「笑いのある職場」(余裕)などが有効とされています。 (いの健センターの第3回交流集会の基調報告より)

7.メンタルヘルス不調者の権利擁護に取り組みましょう  メンタルヘルス不調者が出ている職場での人員体制について、実情にあった体制を確保させましょう。これは、安心して治療に専念できるようにするとともに、当該職場の他の職員の負担増を招かないために重要であり、職場の合意に留意し、勤務体制の確立を当局に求めましょう。  長期休業に入った場合、長引くことがこの症状の特性であること踏まえ、結核療養制度などを参考に、休暇を年間180日に伸ばすなど、実態にあった対応を求めましょう。  近年、当局は勤務成績の不良を理由に分限解雇が出来るように分限規則の改悪をすすめる状況もみられます。それだけに、メンタルヘルス不調を理由に不当な解雇を許さないことや、復帰後の昇任や賃金での不当な不利益が生じないよう必要な対応を求めましょう。

8.総合的な対策のために、「メンタルヘルス対策推進会議(仮称)」の設置を求めましょう  職員全体の予防、メンタルヘルス不調者等への対応、休職者の復帰等への対応が系統的・集団的にできるようにするため、人事担当者、産業保健スタッフなども参加する「メンタルヘルス対策推進会議」(仮称)を設置させましょう。

 医学的・専門的知識をもった専門家の参加を要請しましょう。
 労働組合がこの課題を専門的に深めていくためにも、労働組合独自に、産業保健推進センターなどとの連携をすすめましょう。

9.全国の運動と交流しましょう  各地の取り組みや先進例の交流と普及のため、地方組織・ブロック等で研修会を開催し取り組みの交流をしましょう。
 全国のメンタルヘルス研修会や「自治労連全国労働安全衛生・職業病全国交流集会」(2009年7月11日(土)~12日(日)・広島)への参加を強化し学習・交流を強めましょう。  いのちと健康を守る全国センターや、地域いの健センターなどの学習会や交流集会に参加しましょう。

3 メンタルヘルス対策を実効あるものにするために  以下は、当局に実効ある対策を要求するにあたって、「基本姿勢」「実態把握・予防対策」、「早期発見・早期治療」、「職場復帰」の段階ごとに区分して主な課題と取り組みのポイントを提起したものです。
 各単組での取り組みの参考にしていただくとともに、実践を踏まえて充実させていきたいと思います。

1.とりくみにあたっての基本姿勢について  自治体責任者(知事市町村長)は、職員のいのちと健康を守る決意(認識)を表明(「安全衛生宣言」)する責任があります  メンタルヘルス問題は、深刻な実態にあります。法令が定める施策を行うとともに、より快適な職場環境を実現するためには、問題の重要性を自治体トップが認識し、対策を構築することが求められます。その決意を表明した形が自治体トップの「安全衛生宣言」(仮称)です。  メンタルヘルスに関する労働衛生行政の法令(法律・政令・省令・告示)及び通達などを遵守することが必要です  安全衛生活動の基本は、最低基準である労働基準法や労働安全衛生法など法令を遵守することから始まります。すでに示したようにメンタルヘルスに関しても法令や通達が出されています。したがって、それら法令や通達が示している内容を遵守することが取り組みの始まりです。

2.実態把握、予防対策の推進について  職場全体の底上げ ―精神疾患にかからない対策、精神疾患の発生を減らす取組み― ポイント メンタルヘルスの予防対策に関する研修を実施する  予防の柱は、メンタルヘルス問題に対する正しい知識を、一般職員と管理職員及び自治体トップが身につけて、メンタルヘルス不調者を発生させない職場作りを行うことにあります。

 そのための研修を系統的に行うことが必要です。また、研修は、形式的なものにせず、自治体の実態に合わせたものになるよう内容を工夫することが必要です。

 なお、研修は、系統化して実施することが必要です。 ポイント 従来の産業医に加え、精神神経科医師又は臨床心理士などメンタルヘルス専門家の委嘱を行うこと。小規模自治体等では、地域の精神保健福祉センターや産業保健推進センター等の活用を図る  メンタルヘルス不調者への対応や復職支援に専門家の協力が欠かす事の出来ない条件になっています。従来の産業医に加えて精神科の医師を産業医として委嘱しておくことが求められます。

 個別に委嘱することが難しいところでは、外部機関の活用として、精神保健センターや地域産業保健推進センターなどと、日常的に連携する仕組みを作っておくことが必要です。

 ポイント メンタルヘルス担当者(産業保健師等)の権限と役割を明確にして配置する  メンタルヘルス不調者・個人に対する援助を行う担当者を明確にすることが大切です。

 役所の仕組み上、所属長がその担当者となる場合が多いようです。

 しかし、メンタルヘルス不調の原因として所属長や同僚などとの人間関係にある場合も多く見られます。

 そのため、所属以外の専門家である産業保健師などを担当者として配置し、権限を与えてメンタルヘルス不調者本人と家族及び主治医との対応を行うことが有効です。

 また、メンタルヘルス不調の原因が所属の人間関係でないことが確認できれば、普段の対応を所属に移す事もできます。

 ポイント メンタルヘルス担当者への支援体制を作る  メンタルヘルスの問題は、対応が難しい場合が多いため、担当者まかせになりがちで、担当者が行き詰まって、メンタルヘルス不調に陥るという事例もあります。

 したがって、担当者に対する普段の支援体制を整備しておく必要があります。

 具体的には、担当者の人数の適正配置や担当者が適時専門家や人事担当者などに相談を行うことのできるように保障すること。

 また、外部で行う研修会などに適時参加できるようにすることなどがあげられます。

3.早期発見、早期対応の推進について  本人や周りの気づきの支援 ―精神疾患の発生を早期発見する取組み― ポイント メンタルヘルス不調者本人及び家族や同僚が日常的に相談できる体制を作る  メンタルヘルス不調に早期に気づき、医師の治療に結びつけるために相談体制を作ることが必要です。相談場所の設置にあたっては、プライバシーを考慮し、庁舎外での設置など相談に行きやすい工夫が求められます。

 また、相談は、本人にとどめず家族や同僚、労組なども相談に行けるようにし、安全衛生委員会ニュースなどで周知徹底を行うことが必要です。

 ポイント メンタルヘルス・チェック(アンケート)を定例的に実施する  本人の気づきやメンタルヘルス不調の早期発見のために、年1回以上の計画的なアンケートを実施することがもとめられます。

 アンケート項目には、体調を聞く項目に加え、時間外労働時間や仕事に対する悩みなどが把握できるようにする必要があります。 ポイント 早期発見・早期治療の研修を一般職員・管理職員を対象に制度化する  メンタルヘルス不調者の発見とメンタルヘルス不調者に対する対応の仕方を研修します。

 メンタルヘルス疾患は多様な症状を持っており、職場の対応の仕方によって疾病が悪化することが多々あります。そのようなことが起きないように研修を行います。

4.職場復帰、再発予防の推進について  メンタルヘルスの特性として、職場復帰は、個人の努力だけではうまく行かない場合が多く、職場、主治医、家族、など集団的な支援体制が問われます。

 そのため、系統的に状況を把握し適切な対応を取るための体制や、職場復帰支援の体制を確立することが必要です。厚生労働省は2004年10月に「職場復帰支援の手引き」*1を作成しました。これにもとづき、復帰支援をすすめる自治体の体制をあらかじめ整備しておくことが大切です。

<第1ステップ>病気休業開始および休業中のケア ポイント 産業保健スタッフ(担当者)等への報告・連絡体制づくり  メンタルヘルス不調による休業者の発生を速やかに産業保健スタッフ(担当者)に報告します。報告をもとに、継続する療養把握を誰が行うかを決めるなど、ケア体制や連絡システムをつくり、病状などから対応の判断を行います。

 また、産業保健スタッフ(担当者)は、適時に所属・主治医・家族とのコミュニケーションをとり、療養の進行状況の確認をおこなう必要があります。

 ポイント 療養制度の説明を家族、主治医にも  産業保健スタッフ(担当者)から、療養制度などを家族・主治医に説明すること。また、主治医や家族や本人が、療養制度を知らないことから、職場復帰を必要以上に急ぐことや生活上の不安などが起きないようにすることが大事です。

 ポイント 休職者への所属からの連絡の取り方も注意を  職場の所属が、療養状況の把握を行う場合は、産業保健スタッフ(担当者)に、療養者との連絡の仕方などの具体的な注意点のレクチャーを受けることが必要です。

<第2ステップ>主治医による職場復帰可能の判断 ポイント 職場復帰は、正しい判断、無理なく本人了解を  主治医の判断にあたり、療養制度の認識違いや療養に対する理解不足などによる、無理な職場復帰にならないように注意する必要があります。

 また、本人の納得が大切です。

<第3ステップ>職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成 ポイント 「職場復帰判定委員会」などを設置し、状態に対応した柔軟な復帰支援プランを  「職場復帰判定委員会」(仮称)の設置を行い、客観的な判断を行うシステムを作ることが大切です。

 構成員、開催や復職判定の決め方、プライバシー保護など、判定委員会の審議要綱などを作成しておく必要があります。  委員会の構成は、産業保健スタッフ(産業医、保健師・看護師・カウンセラー・衛生管理者等)や、人事労務担当者、産業医、 また、必要に応じて所属長の出席を求めて行われることが必要です。

 職場復帰支援プログラムが、マニュアルとしてすでに作られているところでは、機械的な当てはめにならないよう注意し、メンタルヘルス不調者個人を単位とする復帰プランが作成できるようにすることが必要です。

 ポイント メンタルヘルス療養制度も必要  戦後、結核を予防するために独自の療養制度をつくり対応を行った結果、大きな成果をあげました。この教訓に学び、メンタルヘルス疾病を結核と同様に国民的課題と位置づけて、(1)療養休暇を通常より多く(180日など)する、(2)「ためし勤務」を別枠の療養休暇として取得できるようにするなど、自治体独自の療養休暇制度などが求められます。 <第4ステップ> 最終的な職場復帰を決定 ポイント 「試し勤務(訓練)〔職場復帰以前のリハビリ勤務〕」や「慣らし勤務〔職場復帰後の制限勤務〕」のあり方を検討し制度化を  メンタルヘルス不調者の職場復帰の特徴点として、ケガのように100%治癒しての復帰ではなく、勤務に耐えられる状態が継続できる段階での職場復帰となります。

 したがって、症状はまだ動いている状態ですが、当人の様態にあった適正な仕事量や質を調節しながら、「試し勤務」や「慣らし勤務」の検討を制度化が求められます。

 職場復帰前の段階で、訓練を兼ねて「試し勤務(復帰以前の休職中に行う勤務)」を行うことが、効果的な場合があります。この「試し勤務」は、休職期間中に行われます。そのため、通勤費や通勤途上災害・公務災害補償への対応、疾病悪化への対応(中断など)を決めておくことが必要になります。  「慣らし勤務」は、職場に復帰した後、メンタルヘルス不調者が再発しないよう、体調などを考慮して行う制限勤務のことです。職場の理解が得られにくい事が考えられ、所属長の役割が重要になります。「慣らし勤務」の決まった期間はありません。疾病の種類や病状の重篤度などによって異なります。

 したがって、「慣らし勤務」期間中もメンタルヘルス担当者や「復職判定委員会」による経過把握が適時・継続して行い、本人の了解も得ながら対応することが必要です。

<第5ステップ>職場復帰後のフォローアップ ポイント 復帰前の段階から復帰先職場へのレクチャーが大切  職場復帰は、受け入れる職場でも大きな問題です。具体的にどのように対応したらよいのか不安があります。

 したがって、職場でどうすればよいか、事前に話し合いを行っておくことが必要です。

 ポイント 復帰する職場は、現職復帰は原則としつつも、柔軟な対応を  職場復帰にあたり、休職を開始した職場に戻ることが原則です。

 しかし、現職に戻ることが不適切な場合もあります。本人の希望や主治医の意見などを十分に考慮して、復職判定委員会が判断のうえ異動を含めた対応ができるようにしておく必要があります。

 ポイント 復帰する職場の勤務体制、仕事の配分等の配慮、職員への研修を  メンタルヘルス不調者の職場復帰のためには、それを支える職場での対応が重要です。  復帰する職場の職員に対する研修(説明)を行い、疾病に対する理解を深めること。

 職場復帰の成否を握る重要な要素は、復職する職場の管理職員の資質です。

 そのため、管理職員に対する研修が重要です。  仕事の割り振りや量の調整、残業など勤務時間の配慮などが必要です。  職場での受け入れについて、人員の加配も含め体制を整えることも必要です。

 小規模事業場におけるメンタルヘルスケアの取り組みの留意点  小規模自治体では、必要な職場の産業保健スタッフの確保ができにくい場合があります。こうした場合、以下の点などが必要です。

 衛生推進者または安全衛生推進者を事業場内メンタルヘルス推進担当者として選任し配置すること。  地域産業保健センター等の事業場外資源の提供する支援等を積極的に活用し取り組んでいくこと。

*1 「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(P31)は、解決しなくてはならない問題と課題も含まれています。

職場のメンタルヘルス対策のために(討議案)

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