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生活保護費引き下げに対して、自治労連社会福祉部会が見解

生活扶助基準の引き下げを撤回し、社会保障制度の拡充を
生活保護費引き下げを含む厚生労働省予算案等に対する自治労連社会福祉部会見解
2013年2月12日 自治労連社会福祉部会 部会長 塚本道夫

 政府は1月27日、生活扶助基準を3年間で670億円引き下げると決め、またあわせて、期末一時扶助の見直しを行うとして70億円の削減を、13年度予算案に盛り込みました。生活扶助基準については、政権交代前から「社会保障審議会生活保護基準部会」(以下、「基準部会」という)で検討され、1月17日に報告書が提出されたところです。その結果を踏まえ引き下げという形になっていますが、厚生労働省予算案概要の生活保護の項目の最初に「自民党・公明党連立政権合意等に基づき、生活保護制度を見直す」と記載されていることからも、政治主導の引き下げであることは明らかであり、決して容認することはできません。

歯止めなき削減と負のスパイラル

 基準部会の報告書では、生活保護世帯とそうでない世帯を比較して、夫婦と子供二人の世帯で保護世帯の方が高かったとし、一方で最も多数である高齢者単身世帯については、老齢加算等の見直しにより、保護世帯の方が少ない層があることもあげています。経済情勢の悪化から引き下げは妥当であり、その決定は内閣と国会にゆだねるとしているものの、他の低所得者対策への影響も大きいので、削減のみの見直しにならないようという意見も含んでいました。

 この10年余りで給与所得は著しく落ち込み、年金や雇用保険・失業給付の引き下げなど社会保障が縮小され、貧困が社会的な問題としてクローズアップされた中で、唯一のナショナルミニマムである生活保護費が引き下げられることは許されません。
 生活保護の捕捉率が10%そこそこしかなく、低所得者層の中には、本来、生活保護受けるべき人が多数含まれる現状で、そもそも生活扶助基準と低所得者層を比較することが妥当とは言えず、基準引き下げのための議論であったことに疑念の余地はありません。
 加えて、基準部会が検討した引き下げ幅は90億円であったにもかかわらず、そこにデフレ分と称して、何の実証もなく580億円も上積みしています。これは自民党の選挙公約であった生活保護費10%削減に近づけるため、はじめから目標額が決まっていたとしか考えられず、公明党も「参院選後なら…」と8月実施に同意するなど、歯止めも何もありません。

 生活扶助基準は、支給金額のみならず、受給の要否を判断する基準でもあります。それを下げれば受給対象から外れる層ができるということであって、捕捉率が他国に比べて突出して低い状況が、さらに悪化することになります。また生活扶助基準は、地方税の非課税基準、最低賃金の設定の配慮事項、就学援助の対象基準など、いわば日本の社会保障水準の物差しとなっています。影響の大きい就学援助との切り離しを検討するという厚労相発言もありますが、すでに「準要保護者」への国庫補助は廃止し一般財源化(地方交付税措置)されていて、負担が増える形となる地方の反発も予想されるなど、実現は困難との見方もあります。

 政策的インフレと消費税増税により負担は増えるばかりなのに、生活扶助基準に連動して様々な形で低所得者層の収入が下がる一方では、消費の回復など期待できず、それが国民全体の給与水準の低下につながり、このままではまさに負のスパイラルに陥るばかりです。

制度見直しの方向性は社会保障制度改革推進法のめざすもの

 基準部会と並行して開催されていた「生活困窮者の生活支援の在り方に関する特別部会」では、就労収入積立制度をはじめとした制度自体の見直しが検討されていましたが、期間を定めた集中的就労指導や,希望の職種につけない場合に地域や職種を変えて就職活動をすること、また低額でも就労することを基本とすべきなど、こちらも看過できない報告になっています。
 とりわけ、新たな相談支援事業は、「すべてを地方自治体で担当するということは、相当の財源や人員が必要であり現実的でない」と報告にあるように、簡素で効率的な行政、言い換えれば自治体の安上がり化を狙った「新しい公共」として登場してきていることにも注視する必要があります。自己責任を明確にし、自立支援という立場に立つことで国の責任を回避する手法は、これまで高齢福祉や障害福祉で実践され、子ども子育て新システムにも通じる基調となっています。最後のセーフティーネットである生活保護も例外ではなく、自助・共助優先のしくみに組み込もうとされています。これは消費税増税関連法案として議論もなく制定された「社会保障制度改革推進法」がめざす方向であり、憲法25条が保障する国民の生存権を真っ向否定する中身であって、断じて認めるわけにはいきません。

生活保護職場に働く自治体労働者としてすべきこと

 生活扶助基準の引き下げは、社会保障の根幹にかけられた攻撃であって、最後の砦をかけた闘いであると言っても過言ではありませんが、それを受け止める私たちも厳しい状況にあります。
 13予算案決定直後に、ある市の福祉事務所で職員の意識調査を行なったところ、生活扶助基準の引き下げに賛成と答えた職員が47.8%(反対8.7%、どちらとも言えない43.5%)、医療費の一部負担賛成が78.2%、扶養困難と答えた親族にその説明を求めることへの賛成56.5%という結果でした。増加する一方の仕事に人員体制が追いつかず、平均在職年数3年未満という職員構成で、意図的な生活保護バッシング報道にも晒される中、福祉事務所が社会保障の第一線を担っているという意識が低下していることによる結果と受け止めなければならないでしょう。

 私たちが生活保護の職場でなすべきことは、生活保護制度の利用に罪悪感や劣等感を負わせることなく、必要な人にきちんと制度をいきわたらせることです。そのためには、まず私たちが社会保障のあるべき姿を学習し、国や政府が社会保障にかけてきている攻撃の本質を正しく理解することが必要です。これまでも労働組合として当局と交渉し、職場体制の改善を求めたり、職場アンケートや学習会を重ねてきましたが、よりいっそうの取り組みが求められています。

 貧困はさらに拡大し、低所得者層を分断させて争わせるようにバッシング報道は続いています。まるで基準引き下げや不正受給厳罰化検討にあわせるかのように、不正受給に関与したとして地方議員・自治体職員が逮捕されています。そうした中でも受給者の生活改善に向け、現場で日々の奮闘は続いています。その支えは、憲法に基づく国民の権利保障の“担い手”としての自治体労働者への期待と役割であり、真に貧困に直面する人に寄り添いながら、生活再建に関わっていく自治体労働者としての喜びからでしょう。

 自治労連社会福祉部会は、社会福祉職場で働く正規・非正規労働者の労働組合として、社会保障制度改革推進法に対峙し、生活扶助基準の引き下げに反対し、生活保護制度を守り発展させる立場から全国の運動の先頭に立ち、奮闘していくものです。

以上

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