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総合福祉法(仮称)厚生労働省案に関する社会福祉部会見解

2012年2月10日

自治体は自立支援法廃止・総合福祉法制定に反対していない 政府は責任をもって骨格提言の実現を!


自治労連社会福祉部会
部会長 塚本 道夫

 2012年2月7日、厚生労働省は総合福祉法(仮称)制定に関する「厚生労働省案」と「総合福祉部会の骨格提言への対応」を明らかにしました。その中身は、障害者自立支援法に変わる新しい制度に期待する障害者や関係者を裏切るものでした。自治労連社会福祉部会は、厚生労働省に対して厳しく抗議し、「厚生労働省案」の問題点を明らかにしつつ、真に必要な法制度を求める運動を展開します。

これまでの経緯

 2006年に施行された自立支援法は、1割の利用者負担を求めるなどこれまでの障害者施策を根底から変えるもので、障害者施策と介護保険制度の統合を目的としてつくられたものです。しかし、施行前から障害者や関係者の反対の声は大きく、根強い運動の成果によって、毎年のように負担軽減などの制度見直しが行われてきました。2009年に自立支援法廃止をマニフェストに謳った民主党が政権交代を果たし、その結果、自立支援法違憲訴訟団・弁護団と国(厚生労働省)が2010年1月に基本合意文書を締結。自立支援法を廃止して、当事者の声を踏まえた新しい制度、総合福祉法(仮称)を2013年8月までにつくることを約束し、全国で和解が成立しました。

 制度改革を進めるため、障害当事者を中心とする障がい者制度改革推進会議が設置され、その下に新しい制度を検討するための総合福祉部会がつくられました。 のべ18回、約1年半におよぶ部会での検討により、2011年8月に「障害者総合福祉法の骨格に関する総合福祉部会の提言」(骨格提言)が取りまとめられました。その後、厚労省による法制化の検討と平行して、民主党障害者WTによる関係団体ヒアリング等が行われ、当初の予定を大幅に遅れて、ようやく示されたものが「厚生労働省案」です。

厚生労働省案の中身と評価

 新聞報道等では「自立支援法廃止見送り」の見出しが踊る中、「厚生労働省案」を検討するため開催された総合福祉部会で、自立支援法の一部改正なのか、自立支援法廃止・新法制定なのかについて問われた厚労省津田政務官は、「すでに2010年の自立支援法等一部改正で、応能負担にするなど抜本的な改正が行われた。今度の改正で障害者基本法改正に対応した目的規定を入れ、法そのものの名称を変えることで、自立支援法は実質的に廃止」、どちらともわかりにくい発言をしました。厚労省障害保健福祉部中島企画課長は「障害者基本法の改正で障害者の定義に社会モデルが明記された。自立支援法は医学モデルに基づくサービス給付法の印象が強い。自立支援法の名称そのものを改め、障害者権利条約と障害者基本法に基づく法の理念規定を加えるなど、必要な改正を行うことで、自立支援法を廃止して新法を制定したことになると考える」と話しました。また中島課長は「現行法を廃止すると法的効果が一端白紙になり、事業者指定・支給決定のやり直しになり混乱が生じるため廃止できない」と説明しました。

 この「厚生労働省案」に対して「ゼロ回答」だと憤る声が多い中、「自治体や現場の混乱を避けるもの」という声もなくはありません。厚労省もここぞとばかりに「法の接続による混乱回避」を理由にしています。しかし、支援費制度から自立支援法に変わった時は、みなし決定を経てすべて支給決定をし直しました。法改正後も利用者負担の見直し等で支給決定を何度やり直してきたことか。拙速な制度構築の結果、くりかえし制度変更をすることになり、障害者や自治体を混乱させてきた厚労省が、「混乱を避けるため自立支援法は廃止できない」など、いまさら何を言うと言いたいし、そうした混乱を二度と繰り返さないようにするため、新しい制度を議論してきたはずです。

 厚労省は、まるで自治体が自立支援法の廃止に反対しているかのように言っています。しかし、自治体は新法制定に反対しているのではなく、混乱を極める制度変更は困ると言っているだけであって、それを自立支援法廃止反対と勝手に解釈して、自治体のせいにするのは詭弁です。自治体関係者の意見を聞かず、官僚主導・政治主導で制度設計を進めるから、現場で何が起こっていて、何を求めているのか把握できていないというのが実態でしょう。実際に、全国で57の地方議会が「(骨格提言を尊重した)障害者総合福祉法の早期制定を求める意見書」を採択しており、どこも自立支援法の改正など求めていません。

これからの運動の方向性

 厚労省は今回の改正で終わる訳ではなく、引き続き骨格提言について計画的・段階的に実施をすると言っていますが、何をいつまでに実施するのかスケジュールも方向性も示されていません。

 JDF(日本障害フォーラム)は、「障害者総合福祉法制定に向けて(第一次案)」を発表し、その中で新法実施の工程表を提案しています。そこでは、民主党がマニフェストに記した2013年8月施行を一部とし、2015年途中までの段階的な施行を提案しています。当事者団体が東日本大震災の影響を考慮し、新法への円滑な移行を配慮しながら検討しているのに対して、「厚生労働省案」は、そうした検討をしたのかどうかすらわからない、質も量も極めて薄い内容になっています。佐藤久夫総合福祉部会長の整理によれば、骨格提言の60項目のうち、不十分ながら取り上げられたのはわずか3項目のみで、検討はされているようだが内容が不明確なものが9項目で、それ以外の48項目、原則無料化や当事者の意見を尊重した支給決定のしくみなど、提言のまさに骨格となる部分が、軒並み無視された形です。こうした対応に部会メンバーばかりではなく、基本合意を信じて訴訟を取り下げた自立支援法違憲訴訟原告団・弁護団も、全国の障害者とその家族・関係者も憤っています。

 今後は検討の場が民主党障害者WTに移り、3月中旬の閣議決定まで、政治主導に一縷の望みをかけるという、まさに崖っぷちの状況です。三度繰りかえされようとしている自立支援法改正を阻止し、自立支援法の明確な廃止と骨格提言を尊重した総合福祉法の制定、そのために必要な(混乱を避ける)工程表の明示を求めて、私たち自治体労働者や障害福祉現場の労働者も、障害者や関係者と一緒に大きく声をあげていこうではありませんか。

 自治労連は2012年国民春闘方針に「障害者自立支援法廃止、新たな障害者総合福祉制度創設に向けた取り組み」として、骨格提言に基づく制度化を図るよう厚労省に求めることを位置付けています。社会福祉部会はその先頭に立って、自立支援法改正による実質的廃止議論を許さず、障害者やその家族、事業者、自治体の誰もが納得のいく制度が構築されるまで闘う決意です。

(以上)

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